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第2話 インカム入手と隔離生活
「結局、スマホOKになったね。臣ちゃん」
「そうだな。ていうか、何かこれ、落ち着かなくないか?」
紅葉とスマホで話しながら、臣がガラスで仕切られた隣りの部屋を手でなぞる。
婚姻期間中のアルファとオメガを引き離すのは良くないという政府主導の専門家会議の決定により、紅葉と臣は互いにガラスで仕切られた左右対称の特別な陰圧室に通された。互いの部屋に続くドアはなく、ただ部屋の一辺がガラス張りになっており、パートナーの姿が部屋のどこからでも視認できる仕組みになっている。まるで互いを監視し合うための部屋のようだが、トイレとシャワー室は普通の壁で仕切られているため、かろうじてプライバシーは守られる、といったところだ。
「果物たち、元気にしてるかな。あいつらは、別棟なんだろ?」
「うん」
「なんだか寂しいな」
「臣ちゃん……」
「いや、心配してるだけだからな。別に、そういう意味じゃ……」
「そういう意味?」
「だっ……だからその、別に一緒じゃないのが寂しいとか、そういう意味じゃないって……」
「ん」
慌てて弁解する臣の口調が、もごもごしているのを見て、紅葉は愛しくなる。
この可愛い存在を、今すぐ両腕に抱きしめることができないなんて、何て不自由な生活なんだろう。
早く終わるといい。
二週間の辛抱だ。
それまでは、ひとまずガラス越しの臣を観察して、我慢するしかなさそうだ……、と思った紅葉だった。
☆
隔離された部屋の担当者にインカムを強請って、紅葉と臣はソーシャルディスタンスを保ったまま、ガラス越しに、互いの部屋で、一緒に喋りながら、ご飯を食べたり、テレビを見たり、本を読んだり、鼻歌を歌ったりしながら過ごしていた。両者とも通話を常時オンにした状態で、話をしながらの陰圧室生活は、それなりに最初は快適だし、新鮮で、楽しかった。
しかし、ふとした拍子に、寂しさが過る。
好きな相手のぬくもりが、この腕の中にない。
心臓の鼓動を、近くに感じることができない。
そうした小さなフラストレーションが溜まりはじめて、そろそろ三日が経とうとしていた頃だった。
あの──些細な事件が起きたのは。
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