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第1話 side 雪路

「誕生日プレゼント、決めました」  いつも会話のはじまりは、「お疲れ様」から始まる。鬼島(きじま)の声を聞いた途端、疲れが吹っ飛んでいく。明日も頑張って働こうという気持ちになれるのだ。  連日、朝から晩まで働きっぱなしで、声にも身体にも疲れの色は出ているだろう。それでも、鬼島の声が聴きたくてたまらなくて、足を延ばして、家から遠い電話ボックスから電話をかけた。 「何がいい?」 「ファッションリングが欲しいです。……重いですか?」  悩みに悩んだ結果、毎日着けられるもの――形に残るものを選んだ。  テレカをプレゼントしてくれたり、衣服をプレゼントしてくれたりと、充分過ぎるほどプレゼントをもらっている。決して着道楽ではない自分が、おしゃれを楽しめるようになったのも、彼のおかげだ。 「全然。パンフレットを取りに来れるか?」  卒業式を一週間後に控えているせいか、少し浮かれ気味だ。お互いに。 「えっと、あの……明日の二十三時頃に来ていいですか?」  親には友人宅に遊びに行くって言っておくので、と付け加えた。 「バイト先の近くのコンビニで待ってる」  自分のわがままが、彼に負担をかけるのだと思うと、なんだか申し訳ない気持ちになってくる。 「お手数おかけしてすみません」 「そこはありがとう、だろ?」 「……ありがとうございます」  照れ笑いされると、受話器から振動が伝わってくるみたいで、耳がこそばゆい。  今週の土曜日が待ち遠しい。もうひと頑張りだ、と気合を入れ直した。

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