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第12話

今の名雪にできることは、話の展開を強引にねじ曲げることだけだった。 「あの、そもそも今日はどちらへ……?」 「あ、言ってなかったね」 そもそもだ。 ここに来てドレスコードが指定されているような場所へ誘われても、名雪は困ってしまう。俺が着れば何でもドレスよ!と言い切る度胸はない。 とはいえ、如月も平服である。流石に、そんなことはないだろうと、安心しつつも予断を許さないといった心情だ。 「ちょっと付き合ってほしいところがあるんだ」 いや、だからそれが何処なのかを聞いとるんだ俺は! 名雪は心の中で突っ込んだ。 ただ、もう名雪の休みは如月に捧げたものだし、このまま家で過ごすと言われても、拒みはしない。一緒にいられるのは、悪い話ではないからだ。むしろ、名雪にとっては喜ばしいことでもある。恥ずかしくて、口には出せないが。 ええい、場所を吐かないなら、服装から攻めるのみよ。名雪は、話の方向性を帰ることにした。 「あの、それってこの格好で大丈夫ですかね……?」 上半身は、白のパーカーにブラウンのコーチジャケット、下は黒スキニーという組み合わせ。クラシックのコンサートだったら、門前払いである。 「うん、大丈夫だよ。よく似合ってるし」 似合ってると言われ、赤面する名雪。二十代後半だというのに、あまりにチョロすぎる。照れている場合ではない。 「あ、いや、あの」 「服装指定とかないから」 心配しなくて、いいから。そう言って爽やかに微笑まれては、何も言えなくなる。 「君は今日、俺に体を貸してくれるだけでいいから」 「!?」 いや、流石にその発言には物申しますよ!? と思いつつも、名雪は動揺のあまり何も言えなくなってしまった。 体を貸すとは、ただ事ではない。どういう意味なのか。名雪は思案する。恋心を否定できなくなった頃にはぼんやりと、恋仲になった頃からは、あれこれ悶々と考えるようになっていた。 名雪とて健全な二十代男子である。いくら初とからかわれようと、仙人のような生活は送れない。 しかし、そんな煩悩を知られるのは、非常に恥ずかしい。自分が正常なのか異常なのかわからないからだ。 係長が、そんな俗物的なことを考えるはずがない。体を貸すという言葉から考えられることを検討してみる。労働力的な意味合いだろうきっと。名雪はそう思うことにした。

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