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第3話
コンコン。部屋のドアがノックされた。
「どうぞ」とミオが返事すると同時にドアは開き、級友である鳥野コウが顔を覗かせた。
「すげー勢いで帰って来てたけど、どうしたー?」
「……コウ……」
ベッドから半身を起こすと、コウがベッドへ近付いてきた。
「畑山から漫画借りてたよな、続き読み終わった?」
「あぁ、終わったよ、ちょっと待って」
ミオはベッドから下り、学習机の傍に置いてある紙袋を持ち上げた。中には同じく級友である畑山から借りた漫画が10冊程入っていた。週刊誌で連載されている野球漫画だ。畑山はミオと同じ野球部員で寮生でもある。
はい、と袋ごと差し出せば笑顔でコウが受け取った。
「はい、これ面白いよな~」
「うん、続き畑山のとこかな、他に借りてる奴いたっけ?」
「あー……どうだろうな、夕飯の時に聞いてみれば?」
「うん……」
「で、どうかした?」
「え?」
「耳ぺたんこだよ」
「……」
犬族のミオには頭の上に獣の耳、そして顔の横には普通の人間と同じ耳が付いている。耳がぺたんこと言われたが、垂れ耳のミオの耳はいつだってぺたんと伏せっているからこれは比喩だ。それに、獣耳が出ているという忠告だ。
この学園の生徒は人間、獣人が半々。だが、獣人が獣の姿や、半獣のような容姿でいるのを怖がる人間もいるので学園の共用施設内(主に校舎や寮)では人間の姿を保つ事が必須条件になっている。
それをもし破れば停学などのペナルティが与えられる。
高校生にもなれば人間の姿を保つ事は簡単な事、もっと幼いとまだコントロールする事は難しい。だが、感情が昂ぶったり、欲情してしまった場合獣人としての血が濃く出て半獣の姿になってしまう事がある。それをコントロールする上での校則でもあった。
今は寮の自室なのでセーフと言えばセーフだ。一緒にいるのだって、鳥族のコウだし。
でも、忠告は有難い。このまま気付かず廊下にでてしまえば校則違反になるからだ。
ミオは気持ちを切り替える、すると今まで茶色の柔らかい髪に垂れていた同じ毛色の垂れ耳が消えた。
「……あのさ、コウは猫目先輩って知ってる?」
「……猫目サクラ先輩?そりゃ、誰だって知ってるだろ……」
長身のミオを見上げるように、コウが何を当たり前の事をと言う顔で言ってくる。
コウはアルファだが、鳥族は小柄な者が多い。コウはそれでも170センチ位はあるが、ミオは185センチなので身長差は10センチ以上ある。
また、ミオが野球部の為日に焼けた浅黒い肌に対し、コウは室内スポーツであるバドミントン部の為色白い。二人が並んだ姿はとても対照的に見えた。
「まぁ……そうなんだけど……」
「なになに?」
コウが楽しそうに聞いてくる。呑気なものだと思ったが、普通の反応なのかも知れないと思い直し気になる事を聞いた。
「あの人ってあんまり人と話さないって聞いたけどさ……本当かな?」
「んー……そうだな、そう聞くよな、オレも学校で見掛けるのいつも一人だ……」
「……」
コウの言葉に頷く。ミオが見た時もそうだった。
先輩はいつも一人だった。それはサクラの生い立ちがそうさせるのか、猫の気まぐれ、誰にも靡かない性質がそうさせるのかは分からない。
だけど、いつ見てもその高貴とも言える顔は寂しそうには見えず、何人も立ち入らせぬ空気を纏っていた。
だからあんな風に誰かを揶揄うにしたって、笑顔を見せるなんて思わなかったんだ。
「猫目先輩の事が気になるの?」
「ち、違うよ……!ちょっと……」
「ちょっと?」
「……見掛けて……」
話し掛けられて、とは言えなかった。
だって内容が内容だ。頭がおかしいと思われるかも知れない。
「まぁ、綺麗だもんな」
「……うん」
それは否定しない。何を考えているのか分からない横顔しか見た事がなかった。
それでも、綺麗だった。あの人はいつも綺麗で見る者を虜にする。
だからだろう「ペット」という言葉に囚われてしまうのは。
「まぁ、いいや、これありがと、畑山はお前からオレが借りたの知ってるから」
「そっか……」
「じゃあ、また夕飯の時に」
「うん……」
一人取り残されたような感覚に陥る。元々自室に一人でいたのにおかしな感覚だ。
そして一人になって考えるのは、どうしても猫目サクラ先輩の事だった。
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