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第4話

 何で、あんな事を言ったのだろう。初対面の自分に対して……。  考えても分からない。  猫目先輩は3年生だし、部活には入っていないから学内での接点は皆無。同じ1年生に猫目サクラの弟がいるけどこちらとも面識はない。確か隣のクラスだった筈。  加えてミオは寮生だが、サクラは送迎車で自宅からの通いだ。  入学して半年、今は10月。半年間でサクラを見かけたのは数回。いつだって一人、もしくは学友と一緒にいた時でも笑顔を浮かべているのは見た事がなかった。  国内屈指の資産家の長子。この国は同性婚と共に一夫多妻もしくは一妻多夫制もある。要は男女共に複数の人間と結婚可能という事だ。ただし、重複しての結婚は出来ない。  富裕層にはこの一夫多妻の夫婦が多い。サクラはオメガではあるが、本妻の長男だ。  本来アルファ同士の夫婦であれば、アルファが産まれる確率は高くオメガが産まれてくるなんて滅多にない。そして猫目家はほぼアルファで構成されていると言ってもいい家系だ。  そんな中長子と言えどオメガなのだ、隠してもおかしくないのに猫目家はそんな事はせず、サクラを猫目家の跡目と決め育てた。  元々猫目の企業は一族経営だ。家族を大切にしている家系なので、オメガだろうがバース性に拘らず会社に迎え入れている一族でもある。 実際、猫目の関連企業にはオメガで会社経営を任されている者もいると何かで読んだ事があった。そしてオメガが社長になっている位なので、経営している企業のオメガの採用率も高くオメガへの福利厚生も手厚いと聞く。  それはサクラがオメガと分かり、企業方針まで変えた結果でもあるがミオはそんな事は知らない。オメガに優しい企業だ、それ位の知識しか持ち合わせていなかった。  子供の為に企業方針の変更やらオメガへの良質の抑制剤の研究まで始めてしまう猫目家なので、サクラの事は目に入れても痛くない程の溺愛ぶりだ。それこそ文字通りの猫可愛がりだ。  サクラのバース性はオメガ。高校3年生にもなれば発情期を経ていてもおかしくはない。  だが、噂ではあるが、サクラは未完のオメガ……まだ発情期が来ていないという。  抑制剤を打っていたとしてもオメガの発情はフェロモンが発生し、その匂いは隠せるものではない。  サクラには発情期がまだないからなのか、常に無臭だ。猫族は特に匂いに敏感でキレイ好きなので、無臭の者が多いがフェロモンだけは別だ。  発情期でなくても、嗅覚の鋭い犬族のミオにはバース性特有の個々の匂いが判別出来る。それはオメガだけでなく、アルファ、ベータにしてもだ。  やはり発情期が来ないと分からないものか?と考えたが、まだ発情期前の小学生であってもバース性の香りはしている。サクラにはバース性がないのか?などと考えてしまう程に何の香りもしない。  でも、さっきは良い匂いがした……気のせいか……そうか、あれはフェロモンではなく香水かもしれない。サクラのような人種は自分と違い香水を付けるのかも。  だって、今まで嗅いだオメガのフェロモンの匂いとは違ったから。何だか安心するような、良い匂いだった。どこかで嗅いだことがあるような、懐かしさも感じたがはっきりとは分からない。  何ていう香水なんだろう。鼻が利く犬族なので香水は苦手だが、サクラが付けていた物は別だった。  今度聞いてみようか、と一瞬思ったがもうきっと話す事なんてないだろう。  だってあれは揶揄われただけなのだから。  自分とは雲泥の差。高根の花というやつだ。  揶揄われたか、単なる猫の気紛れだ。そう思うのにミオの中にはいつまでもサクラの甘い声が離れる事はなかった。

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