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第5話
翌日の事。朝練を終え、教室へ入るとクラスメイトの大半は席に着いていた。
ミオはおはようと声を掛けたり、返事をしたりしながら窓際の自分の席へと座った。
窓際の一番後の席がミオの席だ。獣人も人間も同じクラスにいる、犬族としては長身という程ではないが通常の高校生としては長身の部類なので、席替えをしてからというものほぼ後方の席が充てられていた。
「おはよう、ミオ」
「おはよう」
同じクラスのコウは前方の席だが、まだ朝のホームルームには時間がある為か向こうからやってきた。窓の縁に腰を預け、コウがにやりと笑う。
「噂で聞いたんだけどさ、猫目先輩の」
「……?!」
猫目先輩、という単語にミオが分かりやすく動揺すると、コウは面白そうに目を細め顔を近付けて来た。
「猫目先輩には婚約者がいるらしいよ」
「?!」
「しかも、その相手、蛇村って知っているだろ?製薬会社の、あそこの次期社長って話だ」
「……へびむら……」
聞いた事がある所か、今日だって寮の食堂のテレビで風邪薬のCMを見た。あのCMは蛇村製薬の物だ。その位有名な製薬会社、そこの次期社長が猫目サクラの婚約者。
呆然としているミオにコウは首を傾げながら聞いてくる。
「もしかして、ショック受けてる?」
「え?!」
「だってまた耳がぺたんこだよ」
「え!!」
慌てて頭を抑えたミオに、コウは悪戯っぽく笑って「冗談だよ」と続けた。
だが直ぐに真顔に戻った。
「……本気だった?」
その目には気遣うような色が浮かぶ。
さっきよりも一層慌てて、ミオは首を振った。
「ち、違う、そんなんじゃないよ!!」
コウは疑り深く、ミオの顔を見ていたが、にっと笑うと「そっか」と言ってあっさりと引き下がった。そして、もうそろそろ担任が来るからと言い置き、自分の席に戻って行った。
紺色のブレザーの背中を見送りながら、ミオはぼんやりとコウの言葉を反芻した。
『猫目先輩には婚約者がいるらしいよ』
ショックなんて受けてない。ただちょとびっくりしただけだ。
気持ちが整わない内に、教室の中に担任教師が入って来た。
「おはよう、みんなー」
いつもの日常が始まろうとしているのに、ミオの心はざわざわと落ち着かなかった。
昨日初めて話しただけの先輩なのに、どうしてこんなにも彼の事が気になるのだろう。
キレイ、だからだろうか。甘い声だったからだろうか。良い匂いがしたからだろうか。
いや、匂いは違うか、あれは香水だ。
じゃあなんでだろう。こんな気持ちは初めてで、暫く授業にも集中出来ずミオはその日一日を教師から度々ぼんやりするなと注意を受けながら過ごす事になった。
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