6 / 41
第6話
ミオのぼんやりは授業だけでは留まらず、部活中にも発揮された。
「犬塚、お前今日はバット持つな、外周行ってこい」
「……はい……行ってきます……」
野球部の監督に言われ、ミオは渋々ながらも外周を走りにグラウンドから出て行った。
桃園学園はスポーツ全般にも力を入れているので、運動部も強豪揃いだった。
ミオのようなスポーツ推薦で入ってくる者、もしくは学園側からのスカウトで入学してくる者もいる。スカウトで入って来る有望な選手はリトル時代から素質を買われ、小中学生の時から恵まれた環境で野球をしている者達だ。
それでも、ミオは補欠に選ばれる位の資質は持っている。桃園学園野球部には混成チーム、獣人チームと分け一軍から三軍まである。ミオは二軍に在籍しているが、1年の内スカウト組以外は三軍なので優秀な選手と言ってもいい。
ただ、上には上がいると言うだけだ。
グラウンドでは一軍が試合形式で練習をしていた。ミオ達二軍はバッティング練習をしていた最中だった。
だが、ミオは集中出来ず空振りばかり。全然身が入っていないのを監督に見咎められ、こうして外周を走りに出されてしまった訳だ。
広い学園内の外周、というのは高校の校舎、グラウンドを含めた物なので一周が4キロ近い。グラウンドと言っても野球部のグラウンド、隣にはサッカー場、テニス場、ラグビー場と専用のグラウンドがある。校舎も特別棟を含めると二棟だし、体育館もあるので相当広い。
幸いと言っていいのか、学園敷地内とは言え道路を隔て、陸上専用のグラウンドと柔道や空手競技の部活動が使っている道場は別にある。そっちは道路を挟んでいるので敷地内と言えど外周には含まれなかった。
小等部からある桃園学園全体を走ろうと思ったらフルマラソンだ……。
そんな事を考えながら足を動かす。周りには誰も走っている者はいないが、運動部が外周を走る事は珍しくないのでもしかしたらそのうち他の部活の者に会うかも知れない。
はぁはぁと規則正しく息を吐き出しながら、後退していく景色を見るでもなく目の端に捉えていく。
秋晴れの天気の中走るのは気持ち良かったが、心の中まで晴れ渡る事はなかった。
でも、バッティング練習より頭を使わないだけいいかもしれない。走るだけなら心が囚われていようと足が勝手に動いてくれるからだ。
見慣れた景色の中、ミオは真っ直ぐに走った。
校舎の裏手、特別棟に通じる通路を横目に見ながら走っている時、ミオの目に動揺が走った。
猫目サクラ先輩だ……。
足が止まる事はなかったが、速度は幾分か落ちる。わざとではないのに、サクラから目が離せず、足が自然と減速したからだ。
どこへ行くんだろうと、考えた時特別棟には図書室がある事を思い出す。
それは前に見掛けたのが図書室だったからだ。
サクラは真っ直ぐ前方を見ながら歩いていた。猫族は猫背になる事が多いのに、サクラの背筋はピンと伸びていてそれが堂々とした佇まいに見せているのだと気付く。
今日は黒髪を後で一つに縛っているせいで、襟元から覗く首輪の赤が遠くからでも見てとれた。
首輪をしているオメガは多い。首筋をアルファに噛まれるとその者と番になってしまうからだ。
番とは婚姻とは別にアルファとオメガの間だけに存在する関係性の事だ。
番になると、オメガは番のアルファにしかフェロモンが利かなくなりそれ以外を誘惑する事はなくなるので、抑制剤を飲まなくていいメリットもある。それにアルファは社会的地位の高い者が多いので庇護を受けられる。
婚姻とは別であるが、一夫多妻制を利用し第二夫人以下にオメガが娶られ番契約を結ばれている事も多い。これはアルファからの一方的な番解除で壊れるオメガを無くすのに一役買っているとも言われていた。
じっと見ていたのがばれたのか、それとも猫族も鼻が利く故かミオはサクラに見つかってしまった。通路は外周が見える場所にあるので、ミオから見えるという事はサクラからも見えると言う事だ。
焦ったミオはつい足を止めてしまった。すると、笑顔を浮かべたサクラは上履きのままで通路から外れ地面を伝い歩いて来た。
「汚れてしまいますよ……!」
「……ならば、お前がおいでよ」
「……」
サクラは後足をステップさせ、通路へひょいっと戻る。乾いた地面を踏んでも大して上履きは汚れないと思ったが、何故かそうさせてはいけないと思ってしまったのだ。
選択肢はなかった。ミオはおいで、と言われたままにサクラに近付いた。
ともだちにシェアしよう!

