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第41話

「兄さんは知っての通りオメガだ……だけど、そうとは感じさせない風格を持っているのは猫目の長子であるが故だ……でもそれは兄さんの努力の賜物なんだ……2歳年上の兄は今では全く想像がつかないだろうけど、幼少の頃は引っ込み思案で人見知りだった」  ツバキは優しい顔で幼少期の思い出を語り始めた。  ミオはその隣で知らなかったサクラの、猫目兄弟の話を聞いていた。  兄は教育係が付いても勉強の成績は上がらず、体力も人並み以下であった。  幼少の頃から周りに隠す事なくオメガだと公表して生活していた事もあり、小さな頃は長男のサクラよりも次男でアルファのツバキが次期社長だろうと周囲からは期待されていた。  まだ小さくそんな事が分からない自分と、何となくその雰囲気を読み取っていた兄。  兄はそれを納得していた。だから勉強ができなくてもツバキがいればと思っていた節がある。   小学生の頃、誘拐未遂事件が起きた。  一緒にいたのに狙われたのは兄のサクラではなく、ツバキだった。  直ぐに警備の者が駆けつけ大事にはならず、無事に家に帰れた。怖い思いはしたけど、怪我もなく帰宅出来た事にツバキは安心していた。  でも、兄は違った。長男である自分ではなく弟が危険な目に遭ったのだ、それも目の前で。  自分がオメガで弱く価値がないから。  それからというもの、兄は変わった。  勉学に励み学力を付けると共に、外国語も学び中学へ上がる前には英語だけなら通訳無しで会話が出来るようになっていた。  臆病で引っ込み思案だった性格は物怖じしない誰にでも対等に、それ以上に話せるコミュニケーション能力を身に着け自分のシンパを増やした。  そうやって、将来自分の方が社長の椅子に近いと社内や親戚の者達の期待をサクラ自身に向けさせるよう仕向けた。  それから誘拐未遂はサクラがほぼ対象となり、ツバキは安全圏で帝王学を学ぶ事に集中する事ができた。  全部兄のお陰だ。  サクラはツバキがいるから自分の身に何か起きても問題ないと思っている。ツバキの代わりになればいいと。  多分両親はサクラの意志を知っていると思う。サクラが変わる為の下地を用意したのは両親だからだ。それからコテツもだと思う。  一応長男であるサクラが跡目を継ぐ事にはなっているが、それはまだ長男だからという理由だけでだ。次男がアルファなので、変更の可能性の方が高いと社外では専らの噂だ。  現社長である父もきっと迷っているんだと思う。でも、社内や親戚には内情までは話していない。  だから次期社長はサクラかツバキか、社内では二分されている。まだ二人共高校生なので、露骨な争いは見られない。だが、成人すれば話は違ってくる。  今から取り入ろうと社交の場などは、ツバキに話しかけてくる者も多い。  サクラはと言えば、ほとんどそういった場所に顔を出さない。  ツバキには将来役に立つから行って来いと言うくせに。自分の将来では役が立たないみたいな言い草だ。  きっとそうなのだろう。サクラは社長になるつもりはない。  だからこそ、サクラの将来が明るいものであって欲しいとツバキは願うのだ。  政略結婚なんかではなく、心から想う人と一緒になってほしいと。 「僕は兄さんを応援して……ほんの少し手伝いをする事しか出来ない、あの人は大概自分で何でもできるから……でも、君との事は僕にも手伝えると思って……余計な事だったらすまなかった」 「余計な事だなんて……猫目君がここに連れてきてくれたから……ちゃんと話せた……本当にありがとう」  ミオの言葉にツバキは泣き笑いのような顔で頷いた。 「……絶対……絶対……なんて言っていいのかな、でも、嘘じゃなくて、本当に……先輩が幸せになれるように努力する……オレはまだ子供で今回みたいにみんなに手伝って貰わないと先輩に会う事すら出来なかったけど……もっと大人になる……どうやって頑張ればいいのかは今はまだ分からないけど……」 「僕もまだ二人を手伝っていける事があると思う……だから見守らせてくれるかな?」 「うん、お願いします!僕も猫目君みたいに……なんていうか……アルファのお手本みたいになりたい」 「……そう言ってくれるのは嬉しいけど、きっと今のままの君だから兄さんは君を選んだんだよ」 「そうかな……」 「そうだよ」  もう泣きそうな顔はしていなかった。秋晴れの爽やかな笑顔がツバキの顔に浮かぶ。  ミオは青空を見上げた。飛び立った飛行機から流れ出た飛行機雲が段々と薄れ空に溶け込む。  遠い場所に行くサクラ、だけどこの空はサクラのいる場所に繫がっている。離れても見上げる空は昼と夜の違いがあっても同じものだ。  ポケットから貰ったダイヤを取り出し空に翳す。  キラリと光ったダイヤはこれからの道筋を明るく照らす道標のように見えた。 「そのダイヤに負けないような男にならないとだね……」 「うん……頑張らないと……!」  感触を確かめるように、手の中に握り込む。  このダイヤに誓おう。  未来の幸せを。  二人の愛を。 完

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