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第40話

 あまり時間はないと言っていた、だから早くお別れの言葉を言って離れないといけないのに。そう思えば思う程何も言えなくなる。  サクラを見れば困ったように眉を下げ微笑んでいる。 「ミオ……帰りの時間は知らせるから迎えに来てくれるか?」 「はい」 「……約束だ」 「はいっ!」 「……それじゃあそろそろ行くよ……」 「はい……あの……お元気で……」 「何だかこのまま別れるみたいな挨拶だな」 「…………」 「ミオ」  泣きそうな気持ちに顔がくしゃくしゃになる。目に力を入れていないと涙が溢れそうだ。 「……僕もさみしい……連絡するよ」 「はい……」  ダイヤを包んだ拳の上からサクラの白い手が重なる。温もりは直ぐに離れた。 「連絡します!」 「あぁ!僕も!」  軽く手を上げサクラが背中を向ける。ふわりと靡いた黒髪が背中に掛かる様を見つめながら、きっと振り返ってはくれないだろうと、何となく思う。 「!」  だけど予想は裏切られ、サクラは一度だけ振り返りまた手を振ってくれた。  ミオが大きく手を振り返すと、微かに笑い踵を返す。  小さくなっていく背中は行き交う人達で見えなくなっていく。完全に視界から消えると肩から力が抜け、ミオは深く息を吐き出した。 「はぁ……」  手の中のダイヤだけがサクラとミオを繋ぐ証。失くさないようにしなければ。 「失くさないようにね」 「?!」  見透かされたような台詞にドキリとする。  いつの間にか隣にはツバキが立っていた。 「柏木がチェーンを用意しているからあとで受け取るといいよ」 「ありがとう……」 「……怒っている?」 「え?」  どうして?という疑問は直ぐに納得に変わる。そういえば、通信障害なんて嘘を付いたのだ、ツバキは。でもどうしてだろう。スマホが繋がるのであれば、人力で探すより早いというのに。 「……君なら探してくれると思ったから……」 「……探せたけど……」 「君の鼻に賭けたんだよ」 「……」 「その方が喜んでくれると思って、兄さんが」 「先輩が?」 「展望デッキへ行こうか」  ミオの返事を待たずにツバキは歩き出した。サクラに比べれば肩幅などはあるが、それでもミオの隣に並べば幾分小さく見える。それなのに堂々とした佇まいは長身のミオも圧倒される程だ。それがアルファの素質の違いだと思い知る。  空港なんてほとんど来たことがなかったミオは辺りを物珍しそうに見渡しながらツバキに着いて行く。ここへ来てやっと落ち着いて周りを見る事ができた。  土産物店やレストランなどが立ち並ぶ通路を歩いていると、展望デッキの出入り口が見えてきた。 「さっきより風が弱まっているね」  心地よい秋の陽気の下、展望デッキには飛行機を見ようという親子連れや見送り客などがちらほらいる。フェンスに近付き、ツバキは遠くを見るような目で滑走路を見つめていた。 「どの辺なのかな?先輩達の乗る飛行機」 「あぁ……ここから見えるかな……」 「そっか……」  プライベートジェットなのだから、誰もが出入り出来るような場所から見える搭乗口から飛び立ったりしないのだろう。ツバキも場所をきちんと把握していないようだ。 「あの……」 「ん?」 「……なんで、こんなに色々してくれるの?先輩に頼まれたのはパークの時だけでしょ……?今回は……」 「……あぁ……」  飛行機が離陸すると、近くの家族連れから歓声が上がる。無邪気にはしゃぐ子供が微笑ましい。  二人共機体に視線を向けていたが、ツバキはふとミオを見つめてきた。 「……僕は兄さんの役に立ちたかったんだ……」  それは小さな告白だった。

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