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第3話

 逡巡の間に、ウェザイルの硬く張り詰めたものが、角度を変えてベラムの中を突いた。先ほどとは違う深さと突き上げに、悲鳴を上げる。 「ああ……ッ! う、ウェザイル、さま! ウェザイル、さまっ……」  じゅぷっ、ぐぷっ、ずぷっ……!  突き上げられては腰を引かれ、揺さぶられて、ばらばらになる。  ──もういけない。もうだめだ。なにもかも。  首根にかじりつきながら、ベラムは口走っていた。 「ウェザイルさま……っ、も、もっと、この、……このわたしの……っ」 「ベラム……!」 「ああ……! このわたし、に、ウェザイルさまの……!」  その太いもので、散々に突いてほしい。拓いて、揺さぶってほしい──ほかの事は考えられなくなるほどに、彼でいっぱいに。彼が、この年老いた使用人のことしか考えられなくなるぐらいに、深くくわえ込んで離さない。  ぎゅっと強く抱きつくと、ウェザイルはたまらない、というように何度もベラムの名前を呼んだ。 「ああ……、ベラム……! ベラム……! おれの、ほしい……? おれの、ほしくて、たまらない……?」 「こ、この、わたしにっ……、わたしに、もっと、ウェザイル様の、ものを、……ものをっ……」 「ああ……! なにこれ、本当、……ベラムに、ほしいって言われるの……すごく……、」  腰を突き上げながら、ウェザイルは首筋に顔を寄せて、何度も何度もキスをする。熱いのは、吐息なのか、唾液なのか分からない。だが、どちらでも良かった。押し当てられるウェザイルの唇も、肌をくすぐる吐息も、上半身にまとったままの服が肌に擦れ合うのですら、ウェザイルに愛撫されているような錯覚をする。体中のそこかしこが、小さな刺激を拾い上げて、快感に火をくべる。 「ベラム……、おれの……名前呼んで……? ウェザイルって……、ウェザイルのがほしいって……、様なんかいらないから……、」 「っ……」  唇を噛む。ウェザイルを呼び捨てにするなど、許されない。許されるはずがない。  分かっているのに、ウェザイルがすがるように切ない呼吸を首筋でするから。  心が痛くなる。つらくなる。たまらない気持ちになる。 「……、っ……」  つかんだウェザイルの服に、皺が寄る。ためらう様子を見せれば、ウェザイルが突き上げる動きを弱めた。促すように、入り口の浅いところを小刻みに突く。 「っぁ……、ぁ……そんな、」  そんな緩やかな突き上げでは焦らされる一方だ。緩やかに突かれて、痛いほどに張り詰めた陰茎が揺れる。 「ウェザイル、様……」 「呼んでくれたら、何でもするから」  何でも──  それは、この熱い中を容赦なく突いてくれるということだろうか。揺さぶって、えぐってくれるということだろうか。……この年嵩のみすぼらしい使用人の体を、愛でてくれるということなのだろうか。  それとも、今このときばかりは、自分ほどに彼を慕っているものはいないと驕っていいということなのだろうか── 「……ベラム」 「ウェザイル様……」 「呼んでくれたら、本当に何でもするから……、ベラムが気持ちいいように、突き上げてゆっくり引いてあげる。だから、お願いだから……、」  ああ、……本当に。どうして。これでは。  ベラムは目を閉じて、彼を抱きしめた。彼の耳元に唇を寄せて。情けなくも小さな声で。 「!」  ウェザイルが息を呑んだ。ベラムに頭を抱きしめられるようにされたまま、ベラムの顔を見る。言葉はなかった。すべてがもどかしい、というように、ウェザイルの手のひらがベラムの背中を支え、引き寄せた。 「っ……あ」  浅いところで止まっていた男根が、ずぷっと入り込んだ。ごり、と音をたてんばかりに、深く、強く、ベラムの弱いところをえぐる。 「っひ……!」 「ああ……! も、すごい……我慢できない、無理……!」  ウェザイルがうわごとのように言いながら、腰を引く。ずるり、と猛ったものがゆっくりと引き抜かれ、ベラムは喉をそらした。 「ああ……、あ……!」  太い。  ……先ほどよりも、太くて、熱い。  入り口からほとんど抜けた状態から、再び、勢い良く突き上げられる。ベラムの小柄な身体は跳ね、絡みつかせた足に力がこもる。体の芯を突き抜ける快感に、つま先がぎゅうっと強く丸まった。 「あ、……やっ、……そんな、……ああ……!」 「ベラム……っ、ベラム……!」 「あっあっ……! 太、……ウェザイルさま、そんな、……太う御座いま、す……! わたしの……っ」  入り口が裂けそうだ。引き抜かれるたびに、入り口がめくれるような痛みがある。しかし、その痛みすら、気持ちいい。確かに突かれているのだと嬉しくもなる。 「だからさ、……そういうこと、言うの、だめだって、ば……!」  仕置きだと言うように、ことさら深く、ひねるようにねじ込まれて、ベラムは泣き叫ぶ。 「っあ……! っは……! やっ、……そっ、ご無体な……ッ」  突っ込まれたまま、揺さぶられてさらに奥にねじ込まれる。これ以上奥までは入らない。それなのに、小刻みに揺らされて、頭の中が焼ける。  大きなうねりが体の奥から沸いて、押し寄せてくる。言葉をつなげることも叶わずに、ただただ声をあげる。 「っあ、ああーっ、ああー……っ、も、もう、いっ……」  これ以上は我慢できない。疼きははっきりとした痛みになって、ベラムを苛む。 「は……! ウェザイ、ル様、もっ……」 「もう出そう……?」  尋ねられて、ベラムは何度もうなずいた。次に大きく突き上げられたら、たぶん、こらえきれずに出してしまう。揺らさないで欲しいと抗議の意味を込めて、彼にすがりつく。 「……うん、……出していいよ……!」 「っえ……、あっ、あああ! まっ、…そんなっ……! ひ、……いっ、いけませっ、いけませんっ……! あっあっあ……!」  大きく突き上げられた拍子に、反り返った先から、ぴゅ、と白濁したものがこぼれた。せきとめようと下腹に力を入れたが、もう遅い。一度こぼれたものは、さらに腰を突き上げられる動きに合わせて、ぴゅぴゅ、とこぼれ出る。 「あっ……あっ……!」 「……かわいい……」 「ぁっ……!」  抱き寄せられて、ベラムは力の入らない手を彼の肩についた。体を密着させるようにかき抱かれる。服を汚してしまう、と乱された思考で思った。だが、それも一瞬の余裕でしかない。抱き寄せられたとたんに、内側の浅いところを猛ったものが当たって、ベラムは背中をそらした。 「っああーっ! あっ! そ、そこはっ……」 「……ここがいい……?」 「ひっ……、あっあ、もっ、あ、っ、ああああーっ!」  びゅくっ、びゅくっ……!  頭の中が真っ白に焼ききれる。勢い良く、白濁したものが噴き出す。痛い。痛いのに、もう止められない。 「あっあ……」  びゅくびゅくと陰茎を震わせ、噴き出した快感に酔いしれる。無意識に余韻を味わって、身体を弛緩させた隙に、中に埋め込まれていたウェザイルのものが熱いしぶきをあげた。 「っあ!? ああ……! っは……!」  不意打ちのような形で熱いしぶきを味わって、ベラムはゆるゆると頭を振った。腹の中が熱くて、たまらない。 「っあ……、あ……」  ぐったりとした身体を、ウェザイルが抱きとめる。中に挿したままのものを、ずるりと引き抜かれて、ベラムは背筋を奮わせた。ごぷ、と生暖かいものが垂れ伝い落ちる感覚に生々しい気持ちになる。 「……ぁ…ぁ…」  わなないたベラムの唇に、ウェザイルは唇を押し付けた。なだめるようなキスを何度もされて、ベラムは目を閉じた。ウェザイルの唇は熱かった。 「ウェザイル様……」 「ん」  ゆっくりと目を開くと、ウェザイルが嬉しそうに笑った。  ベラムは、ああ、と少し笑った。この方の、この笑い方は好きだ。何より、安堵できる。  ベラムは彼の両肩に手を置いて、彼を見つめた。 「ウェザイル様、……辛う御座います……、降ろして、いただきたいのですが……」  よく考えれば、この体勢はかなり恥ずかしい。まるで、小さな子どもが大人にしがみついているような図だ。五十も過ぎて、これでは体裁が悪い。 「……ん、……うーん」  ウェザイルは難しい顔をして考え込んだ。 「……やだ」 「は」 「やだ」  何を言っているのだろう、この方は?  ベラムは眉を寄せて、不可解な表情をした。  ウェザイルは何故か、むくれた顔をする。……顔が整っているだけに、なんだか気味の悪い光景を見ているような気もする。 「ピロートークしたい」 「…………」  ベラムは眼鏡のフレームに指をあて、目を閉じた。感じ入っているのではない。呆れていた。 「ウェザイル様。……そもそも、わたくしは採寸をしにここへ来たのです。それが、こんな……ええ、その、……確かめ合う形となって……、ミラルが……」 「でもベラム、正直体辛いじゃん」  歳だから、と余計な一言を付け加えられて、ベラムの眉間に皺が寄る。さすがのウェザイルも失言に気づいたらしく、あわてて訂正する。 「お、おれが無茶やったから辛いんじゃないかなって」 「左様です。わたくしはそんなつもりは毛頭……、っ……」  バランスを崩して、ウェザイルの肩をつかむ。ピリ、と下のあらぬところが痛みを発する。注ぎ込まれた精液が冷たくなって、なんとも気持ちが悪い──ひくひくと無意識に収縮するのも浅ましい気持ちがしていただけない。  大体、下半身裸のままだ。なんて格好を晒しているのだろう。 「とにかく、降ろしてください。……その」 「一緒に風呂」 「いけません」 「なんでー」 「使用人とご入浴されるなど、もってのほか。そもそも、……ん」  唇を塞がれた。舌を絡められて、言葉を失う。ちゅ、と音を立てて唇が離れたと思うと、そっと下に降ろされた。床に足をつけたのはいいものの、思った以上に力が入らなくて、かくりと膝が折れる。よろめいたベラムの身体を、ウェザイルの腕が支える。 「ほら、言ったじゃん」  なんでそうなのかなあ、と言いながら、ウェザイルがベラムを横抱きに抱えあげた。 「っ、ウェザイル様!」  ウェザイルはベラムの背後にある扉を開けた。そのまま抱きかかえられて、寝室のベッドの上まで運ばれる。 「お、お待ちください、わ、わたくしは随分と、その、……汚れていまして」  だからベッドの上に降ろされるわけにはいかない。シーツを汚すわけには。 「え? ごめんよく聞こえない」  わざとらしく聞こえないふりをされた。彼は、その端正な容姿に反して、砕けた物言いをする。他の使用人や、身内がいるときはその身分にふさわしい言葉遣いと態度になるというのに。  これは、幼少時からそばで控えていた自分に対する、気安さの表れなのだろうか──  まるで壊れ物を扱うみたいに、柔らかなベッドの上に降ろされて、ベラムはなんとも気恥ずかしい気持ちになった。あいまいな表情を見て、ウェザイルが小首をかしげる。 「何」 「ウェザイル様は少々、この年寄りに対して分不相応な扱いをしがちでは……」 「うーん、そう?」  ウェザイルは軽く笑って、ベッドに膝をついた。そしてそのまま、顔を近づけてベラムの額にキスをする。 「でも、誰からも文句が出てないから、問題ないよ」  額から眼鏡のフレームへ。ウェザイルは、眼鏡のフレームの、一番出っ張った部分に唇を寄せた。  ※ ※ ※  しばらくは、海よりも深く広い心でいられる。  ウェザイルは、友人のジョルジュを眺めながら、すべてを許した微笑を浮かべていた。目の前の友人は、相変わらず、愛妻の自慢──もとい、ノロケ話を展開している。少し前まではそれを死んだ魚の目をして聞いていたが、今はそんなこともない。むしろ、そんな友人をほほえましい気持ちで眺めていられる。 「……というわけなんだよ。本当リーザかわいい」  ジョルジュはデレデレした顔で、愛妻リーザの自慢を締めくくった。今日は今日で、新しく仕立てたドレスが似合いすぎて困るとか、あれこれどうとかこうとか、正直、代わり映えしない内容だった。ジョルジュにいたっては、それが通常通りなのが痛々しい。 「そうか、よかったな」  ウェザイルは笑って適当な相槌を打った。  その反応に、ジョルジュは眉を寄せた。いつもと様子が違うことに気がついたようだった。 「……なんかあったのか、おまえ」 「別に?」 「別にってことはないだろ。おまえ、いつも俺の話、生気のない顔して聞いてるだろ。だから俺は、おまえを元気付けようと思ってリーザの話をだな……」  生気のない顔というところまでは当たっているが、元気付けようと思って愛妻の自慢をする友人の心遣いには脱帽する。……そんな心遣いはいらない。まったくいらない。 「あ、分かったぞ。ベラムとなんかあったんだろ」  この友人は、ウェザイルがベラムと特別な関係になっているのを知っている。そればかりか、この友人は、ウェザイルとベラムの関係を支持し、見守ってもくれていた──バカ愛妻家だが、基本的にウェザイルにとってかけがえのない友人なのだ。  ジョルジュは探るような目つきをして、身を乗り出した。 「何があったんだよ」 「別に」 「何だよ、隠すことないだろ。俺とおまえの仲じゃないか」  そこまで言われれば黙っているつもりもない。ウェザイルは自分がやや自慢げな気持ちになるのを感じながら、告白した。 「ベラムに呼び捨てにしてもらったんだよ」 「え」 「だから、ベラムに呼び捨てにされたんだよ」 「それは……」  ジョルジュは頭に手をやった。そして、はは、と笑った。 「それ、すごいじゃないか。あのベラムに? マジか。すごいな」  バカにしている様子もなく、彼は心底驚いた、という顔をする。 「彼、根っからのアレだろ。執事ですって感じじゃないか。よくもまあ、呼び捨てさせたな」  ジョルジュの言葉に、ウェザイルは改めて喜びを噛み締めた。ベラムが根っからの執事で、使用人の立場を崩さないのは、ジョルジュも知っている。ベラムが、ウェザイルを呼び捨てにしたというだけで大変なことなのだ。  それに──  ウェザイルは友人の顔を改めて見つめた。  ──先日、散々、呼び捨てにされるのはたまらないだのなんだのと。  どうだ、自分だってやればできる──  ウェザイルは頬を緩ませながら、うっとりとため息をついた。ベラム以外の他に見せるには珍しい所作だったが、今のウェザイルは大きな幸福感で満ちていて、なんでもないように装うことすら難しかった。 「本当に、ベラムはかわいすぎる。勿論、何をしててもかわいいけど、先日のあれは(中略)ベラムはいつもおれに対して様付けだし、二言目には使用人だからと言うけど、先日のあれは(以下略)」 「へ、へえー……」  ジョルジュは引きつった笑みを浮かべた。ひょっとしたら、死んだ魚の目をしていたかもしれない。 happy end.

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