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第2話

「好きなんだ……、ベラムのことが、好きなんだ……、愛してる、……本当に……」 「……ウェザイル様……、」  せめて、己が歳相応に達観できていれば、こんなに思い戸惑うこともなかったのに。  せめて、この方が、自分を一夜の慰みとして求めるのみならば、こんなに心乱されることもないのに。  二十も年上でありながら、彼を諌めるどころか、かき口説かれてたまらない気持ちになるとは。 「ごめん……、本当にごめん、……ベラム困らせて……、でも我慢できないんだよ……」  主人の弟、主筋にありながら、彼は使用人である自分に強要することを何より嫌う。もっと傲慢に使用人に命じてもいいのに、彼の気性が無理強いを好まない。彼のその優しい心持を垣間見るたびに、ベラムは誇らしくも切なくなる。  彼が優しい心持を忘れずに育ってくれたこと、その優しさを自分にも向けてくれること──  この人は、……この方は、  ──私の誇りだ。  彼になら、何もかも捧げる。他には捧げない。この年老いた自分が欲しいというのならば、いくらでも捧げたい。どこにどう堕ちようと、構わない。惜しいものなど何もない。 「ベラム……、」  ウェザイルの熱い声を聞いていると、罪深いと分かっていながらも自分を止められなくなる。止める必要などないのではないかとすら思ってしまう。  この方を誰よりも慕っているのは己だと、自負したくなる── 「……ああ、」  ため息をついたのは、ウェザイルだった。耐え切れないような細い吐息を漏らしながら、ウェザイルが何度も何度もベラムの眼鏡のフレームに口づけをする。まるで、愛しい体の一部を唇でなぞっているようだった。 「愛してる、愛してる、……愛してる、……」 「ウェザイル様、……」  ウェザイルの顔を間近で見つめるのを恐れて、ベラムは目を伏せた。視線を向ける先に迷って、まぶたが震えた。 「おれを見て。おれを呼んで……」  呼吸が大きく乱れる。ウェザイルの呼吸なのか、自分の呼吸なのか分からない。 「……ベラム」  眼鏡のフレームにしていたキスが、頬に降りてくる。熱を孕んだ吐息でくすぐられて、ベラムは眉を寄せて目を閉じた。 「……ウェザイル様、」 「ウェザイルって、呼び捨てにして」  それはできない。ウェザイルを呼び捨てにするなど、使用人の分際で許されることではない。  ウェザイルはベラムの逡巡を感じ取ったようだった。分かってる、と小さく囁くと、彼は下着の中に滑り込ませた手を動かして、ズボンごとそれを一気に下ろした。 「……っ、」  外気に晒された下半身に心もとなさを覚える間もなかった。ウェザイルがすぐさまベラムの腰を抱え、両足を割って自らの腰を割り込ませる。あからさまな格好に、ベラムは自分の指を強く握った。片方だけきっちりと嵌めたままの手袋が、自分の立場を否が応にも突きつけてくる。自分は使用人なのだ。それも、ずっと年上で、彼を幼少時から見てきた──  背徳感に、背筋が震えた。  明らかにいろんなものに背いているというのに。  慕う気持ちは、もうどうしようもない。押し殺せない。これは、主筋のウェザイルに強要された関係ではないのだ。執事の忠誠を試されている行為でもない。  現に、今、年甲斐もなくこの胸のどこかを絞る疼きがあって。  下半身を押し付けるようにされて、ベラムは無意識に両足をウェザイルの腰に絡ませた。  これは、この方を誑かす行為だ、と思った。 「っ、ベラム……、」  刹那、性急にウェザイルの唇がキスをねだってくる。呼吸はさきほどよりもずっと熱い。むさぼりつくすような深いキスを与えられて、レンズ越しの視界に涙が浮いた。  背中が壁に跳ねるたび、壁に掛かった絵が大きな音を立てる。 「っん、……ふ……、っちゅ……、ああ……、ウェザイル、様、」 「ん、……ベラム、……ベラム……、」  あからさまに生々しいキスの音が、体の奥の熾火を煽る。彼はいつもそうだ。ひどく荒い口づけで、ベラムの握り締めていたものすべてを押し流してしまう。  そうしてくれたほうがいい。思いためらう間もなくしてくれたほうがいい。情けなくも、飲み込まれてしまえばいい。  口づけを繰り返しながら、ベラムはウェザイルの首に腕を回した。それを待っていたと言わんばかりに、ウェザイルがベラムの小柄な身体を抱き寄せ、抱えたままで壁際から離れた。  そのまま寝室に向かうのかと予想したが、ベラムの予想は外れた。  ウェザイルは寝室に続く扉の前で立ち止まり、抱えたベラムの背を押し付けた。肘をつくようにして、長いキスをする。  キスをするたび、木製の扉がガタガタと音を立てる。壁際でキスをするよりも大きな音に、生々しい気持ちをかきたてられてたまらない気持ちになる。キスには荒々しい勢いがあるのに、いたわるようにしっかりとベラムの腰を支えるウェザイルの手のひらが、年甲斐もない感情を呼び起こしてしまう。……たまらない。お慕いしている。心を捉えて離さない。  深く味わうような、すべて浚うような、名残惜しいキスを終えて、ウェザイルがほんの少し顔を離す。熱い吐息が、ベラムとウェザイルの唇からこぼれた。 「ウェザイル様……、?」  囁くように小さな声で、わずかに語尾をあげて尋ねると、ウェザイルは何も言わずに近くにあったチェストの引き出しを荒々しく開けた。その中から、手のひらに収まるほどの小瓶を取り出す。改めて何が入った小瓶か尋ねなくても分かる。  彼は、その瓶のコルク栓を歯を使って引き抜き、吐き捨てた。 「ごめん、……ベッドまで我慢できない」  瓶の中身を指に取り、ウェザイルがすれた声で詫びる。  彼の指がベラムの浅い割れ目を滑り、肛門に辿りつく。ぬるりと冷たい感触がして、ベラムは唇を噛んだ。 「っ……」  くちゅ、と濡れた音が聞こえる。  ゆるゆると窄まりをなぞられて、ベラムの背筋にぞくぞくとしたものが湧き上がってくる。思わず、ウェザイルの腰に巻きつけた足に力が入る。そのせいで、彼を引き寄せるような形になって、自分がひどい淫乱になったような気がした。 「いい……?」  もどかしいほどに優しく尋ねられて、ベラムは何度もうなずいた。 「いかに老身といえど、……た、多少のことで壊れたりはいたしません、から、ウェザイル様が望まれるように……、」  そういう問題じゃないんだよ、とウェザイルが眉を寄せて少しつらそうに笑った。こめかみに顔を寄せて、鼻先で眼鏡のフレームを愛撫する。  眼鏡にキスしながら、ウェザイルは指をゆっくりと差し入れた。ベラムの体がびくりとこわばる。 「っん……!」 「力抜いて」  窺うように入り口を広げられて、抑え切れない吐息がこぼれる。極力、傷つけないように彼が気遣って指を差し入れているのが分かる。くすぐるみたいに肛門の入り口を愛撫されて、そこが浅ましくひくつくのを感じた。  つぷ、つぷ、と浅いところを指が出入りする。窄まりの襞を丹念になでるようにされて、体が震えてしまう。明らかな異物感と、確かな愛撫に体が熱くなるのを止められない。 「……ん、……っく……」  聞き苦しい喘ぎ声を出してしまいそうになって、ベラムは下唇を強く噛んだ。中の浅いところをかき回される感触に耐えようと、頭を振る。  陰茎の疼きが耐えられない。確認しなくても分かる。自分の性器は、ひどく勃起しているのだろう。現に、ウェザイルの指が内側をかすめるたびに、ぞくぞくと手ひどい疼きが一点に集まってくる。 「……くっ……!」  ずぷ、と浅いところを撫でるだけだった指がより深く中に入り込んできた。思わずウェザイルの服を強くつかんで、奥歯を噛み締める。身体がこわばって、ウェザイルの腰に巻きつけた足に力が入る。 「……あ……! っぐ……!」  一本だけだった指の感触が、二本に増えた。入り口を押し広げられるような露骨な感触。唇を噛み締めていられない。頭を振って、うめき声をあげる。 「っあ……!」  くちゅくちゅと濡れた音がする。実際に、小瓶の中の潤滑油でそこは濡れているのだろう。肛門に指が滑り込むたびに、なんともいえないぬるりとした感覚がする。  ちゅく、くちゅ……  最初は窺うようだった侵犯も、次第に露骨になってくる。指が三本、肛門に入り込んできて、思わずベラムは声を上げた。 「っああ……! はっ……、ウェザイル、様っ……」  不意に、ウェザイルの手が、勃ちあがった陰茎を握った。 「っ!?」  思わず腰が引けた。肛門への刺激に気をとられていて、まったく想定していなかった。ベラムの困惑を余所に、ウェザイルの手が皮をずらすように陰茎を扱き出す。 「っひ! お、お待ちくださ、……それは……!」  圧倒的な快感に涙が散る。言葉をつむぐ余裕すらない。四肢がしびれて、物事が考えられなくなる。じんじんとして、熱い。口を閉じる余裕もない。 「っは、あっ、ああっ……、ああっ! そ、そんな、……!」  いけない。だめだ。許されない。  気持ちいい。我慢できない。許されない。  許されることではないのに、ウェザイルの手は臆することなくそこに触れて、剥けた先を指先でなでるから。せき止めなければならないものもせき止められなくなる。  ……もっと触れて欲しいと。心地いいと。  ベラムは、咄嗟に嵌めたままの自分の手袋を噛んだ。噛んだままで手袋を脱ぎ、ウェザイルの背中に手を回す。ぎゅ、と強く彼の服をつかむと、ウェザイルが身体を寄せてきた。ギシ、と背中で扉が軋んだ。  真っ赤に熟れた先端を、ウェザイルの指の腹が強くこする。同時にくびれもしごくように責められて、ベラムは激しく頭を振った。 「っぐ、……んん、……んん!」  噛んだ自分の手袋を離してしまわないよう、必死に歯を食いしばって、喘ぎ声を押し殺す。しかし、喘ぎ声を押し殺そうとすればするほど、ウェザイルの手が容赦なく陰茎を責める。 「っん! ……んん……! ……ん……!」  目の前がちかちかとする。びりびりと突き抜けるような快感が走るたびに、体が跳ねて、背中に接した扉が軋む。 「ベラム……? 気持ちいい……?」 「ん、ぐ……、……、……」  うなずくようなことができるはずもない。ウェザイルには、浅ましい姿をもうこれ以上見せたくない──  いじましいベラムの忍苦をあざ笑うかのように、ウェザイルの手が熱く充血した肉棒をしごく。強く握りこむように根元から先までずらすように触れられて、ベラムはたまらず口を開いた。 「っああ……!」  それまで噛み締めていた手袋が滑り落ちた。それに満足したのか、ウェザイルが耳元で低い声で嬉しそうに笑った。 「声、……殺そうとするからだよ」  ぐっ、とウェザイルが足と足の間に割り込ませた腰を強く押し付ける。尻の下部に、確かに硬い感触があるのを知って、ベラムはうつむいたまま、ウェザイルの服を強く握った。  ウェザイルが抑えた声で、ああ、とうめいた。 「……いつもそうしてくれたら、いいのにな……、ベラムから……触られるだけで……」  言いながら、彼は呼吸を荒くして、ベラムの硬く勃起したものを手のひらで包み込み、先ほどとは打って変わった激しさで上下にしごいた。 「あ、あ……! ウェ、……様……っ!」  唇を噛み締めようとして、呼吸が喉に詰まった。えづいた拍子に、自ら課した戒めが緩む。その戒めの隙間から、圧倒的な勢いで、見知った感覚がせりあがってくる。  ベラムは、ウェザイルの首に回した腕に力を入れた。あふれ出すそれを我慢しようと眉を寄せたが、無駄な抵抗だった。  もう止められない。あふれて、噴き出してしまう。こぼれてしまう。 「あ、あ……、ああ……!」  びゅくっ、びゅるっ……!  硬く勃起した陰茎の先から、びゅるびゅると勢い良く精液が噴き出す。どろりとした熱い感触が、腿の内側、尻の隙間を伝い落ちた。 「ああ……」  ウェザイルの服を汚してしまう。頭の片隅では分かっているのに、吐き出した快感が大きすぎて、思うように体が動いてくれない。ベラムは荒い呼吸を繰り返しながら、ウェザイルの服をつかんだ。力の入らない手で、彼のシャツに触れて唇を震わせる。それだけで、ウェザイルはベラムが何を言おうとしているのか、察したようだった。 「……汚したとか、どうだっていいよ」  ちゅ、と音を立ててウェザイルはベラムの眼鏡に唇をあてる。唇に唇を寄せられる気配がして、ベラムがわずかに唇を開けば、ウェザイルの唇が重なった。熱い舌が入り込み、上あごをなぞるようにくすぐる。 「っん……! ……ん、」  舌を強く吸われるとくらくらと眩暈がする。視界も思考もぼんやりとして、何も考えられない。 「ん、……ふ……、ぅ……」  ウェザイルの腰に絡み付かせた足から力が抜けて、ずり落ちそうになる。それをウェザイルがしっかりと抱えなおす。 「……おれでいい……?」  ウェザイルの顔が耳元に寄せられて、かすれた声で尋ねられる。耳朶をくすぐる熱い囁きに、ベラムは言葉にならない吐息をもらした。ウェザイルは、それを返事と受け取ったようだった。  彼はベラムの身体を扉に押し付け、身体を寄せた。  かすかな金属音が荒い呼吸の合間に聞こえた。ベルトのバックルが触れ合う音だ。  衣擦れ音がしたと同時に、ウェザイルの両手が、ベラムの尻を左右から包み込むように支えた。肉を左右から引っ張り、肛門を広げるようにする。  ああ。  ベラムはたまらなくなって、ウェザイルの首筋に顔を埋めた。頬が熱くなるのを恥じて、ぎゅっと彼にすがりつく。  ベラム、とウェザイルの抑えた声がする。その声は、上ずっている。興奮しているのは明らかだ。  ……この老体でもいいと、この方はいう。  確かに上ずった声、興奮した荒い呼吸。本当に己の老体で事足りてくれているのだろう。奇跡的だ。夢ではないのだろうかとも毎回思う。  ゆっくりと、しかししっかりとウェザイルの手に腰を支えられながら、体が沈む。硬い切っ先が窄まりに押し付けられたかと思うと、ぐぬ、とそのまま押し入ってくる。  ベラムは、声にならないかすかなうめき声をあげて、頭を振った。  入ってくる、この圧倒的な。  太くて、熱い、硬いこの。 「っぐ……! っぁ……!」  容赦なく硬いものが入ってくる。入り口の周りがピリピリと痛みを発し、ベラムはウェザイルの背中に爪をたててすがりついた。 「っ、あ…あ…! う、ウェザイル、さまっ……」  以前、身体をつないだときよりも、ウェザイルの陰茎が太く大きく感じる。痛い、と口走りそうになって、ベラムはウェザイルの首根に腕を回しながら、自分の指を噛んだ。 「っぐ、……いっ、……ああ……!」  裂けそうに激しい痛みに身体を反らせると、ウェザイルの大きな手のひらが背中に回された。 「べ、ベラム、……も、もう少しだけ、我慢して……」 「は、…あああっ……!」  これ以上進められると裂けてしまうのではないかというところで、ずぷん、と張り詰めていた感覚が緩んだ。入った、と達成感を味わうより早く、ぐぐっとさらに太い陰茎が中に押し込まれる。 「あ、あ……! あっ……! こ、こんな、……ああ……っ!」  ずぷずぷと硬いものが埋め込まれていく。入ってくる感覚に、ベラムは耐え切れずに眉を寄せて、あられもない声を上げてしまう。 「ベラム……、もう少し……だけ……!」  尻に柔らかな陰毛の感触がした。奥の方で、熱せられた棒が息づいているのを感じる。 「っは……、は……っ……」  浅い呼吸を繰り返す。中の重量感に、眩暈がする。自分の中に、誰よりも慕うウェザイルの一部があるというだけで、たまらない気持ちになる。切なく、痛々しい、哀れな。  ──お慕いしている。  彼が心の優しさを見せるたびに、息苦しくつらい思いをする。どこにも逸れることなく、ましてや捻じ曲がることもなく、立派に育った姿を見るたびに、心をざわめかす。彼の責任感の強さも、要領の悪さも、すべてベラムを苦しませる。使用人の立場以上に、昼夜問わずに彼のことを案じてしまう──  ベラムは、ウェザイルの腰に絡めた足に力を入れた。抱きつくように体を寄せると、内部のウェザイルが大きく硬くなって、中を突いた。その刺激に、ひくりと彼の根元を締め付けてしまう。 「っ……ベラム……」  ウェザイルがつらそうに顔をしかめた。両手を扉について、ベラムの顔をすがるような目で見る。ベラムは目を細めて、彼の頬に触れた。……手袋をせずに、彼の肌に触れるのはこのとき以外、ほとんどない。昔は──彼が幼かったときには、熱を確かめるために直接額に触れたことはあれど。  頬に触れれば、彼は何か言おうと眉を寄せた。多分、それは懇願だ。彼のような立場からなされるには、あまりに不似合いな。それを、ベラムはかすかに笑って封じた。 「……良う御座います」  ──あなたのお好きに。  ウェザイルはかすかに頭を振って、ああ、と搾り出すように嘆息した。そしてそれから、彼は、耳元でごめん、と必要のない謝罪をして、ゆっくりと身体を引いた。 「ッ……!」  ずるり、と中のものを引き連れるようにして、埋まっていた杭が退かれる。はしたない喘ぎ声を漏らしそうになって、ベラムは声を押し殺した。  一刻の猶予もなく、再び、熱くて太いものが入ってくる。 「っん……ぐ……!」  窺うようにゆっくりと突きたてられて、内臓を焼くような熱いものがじわじわと沸いてくる。切ないような、もどかしいような、たぶん、快楽に数えられる感覚。ひどく、被虐的な気分になる。 「ベラム……? 痛くて、我慢できなかったら、言って」  ずぷぷ……、とゆっくりと奥まで穿たれる。肛門がいっぱいに広がっているのが、張り詰めた感触で分かる。一つバランスを崩せば、何もかも破れてしまうような、そんな危うさ。中に息づいた彼のものが、脈打つのすら感じ取れるような気がする。それがまた背徳的な気持ちを煽って、ベラムを酩酊させる。  本来なら許されるはずのない快感。罪深さに酔う。 「ああ……、きつい……、すごく……」  ウェザイルがうわごとのようにつぶやく。その声は低くかすれて、ベラムの耳に焼き付いて離れない。押し込まれたそれが、さらに硬くなったのを感じて、たとえようもない気持ちになる。  この老いた身体で、心乱してくれるのならば。  無意識のうちに、ベラムはくわえたそこを締め付けた。ウェザイルの整った顔が、耐えるような顔をする。 「……、ベラム」 「も、申し訳、……そ、んなつもりは、」  ただ、あなたが気持ちよさそうにするから。  ベラムの謝罪を、ウェザイルは眉を寄せた笑みで制した。 「だから、なんで、……謝るかな。もう少し、……踊らせて」 「それは、……っ、あ、……!」  ぐちゅ、と濡れた音をたてながら、太いものが縁を擦りながら退く。体の中をかき乱される錯覚に、ベラムは喉をそらした。 「ベラムの……、勃ってるから、……悪くはない、ってこと、でしょ」 「っ、ひ、……い……っ!」  ずぷっとさきほどよりも勢い良く、硬いものを突き立てられる。ずん、と奥に響くほど深く突き上げられて、頭の芯がびりびりと震えた。思わず天井を振り仰ぐと、後頭部が硬い扉に当たった。 「ベラム……、本当……、おれ、こんななのに、」 「っあ、あ、あ……!」  ずるりと、また身を引かれる。抜かれるときがたまらない。すべて持っていかれるような、狂おしい感覚に溺れてしまう。自分を見失いたくなくて、ベラムはウェザイルにすがりついた。何も考えられなくなってしまう。これを続けられると。  ぐぷ、と濡れた音がした。限界まで引き抜かれたものが、また勢い良く入ってくる。 「ぐ、っ……! っああ……!」  奥まで一気に貫かれて、ベラムの体が浮いた。身体をのけぞらせれば、背にした扉に当たって、ひどく軋んだ。 「はっ……、あ……」  再び抜かれるのを予感して、ベラムは両足をウェザイルの腰にきつく絡ませた。狂わされてしまう感覚が怖かった。 「っベラム……!」  ウェザイルが息を呑んだ。  罰だと言わんばかりに、奥までいっぱいに突きこまれた陰茎が、また引き抜かれる。入り口が擦り上げられるたび、ぞくぞくした快感がつま先から頭の先まで駆け抜けて、ベラムははっきりと泣いた。 「あ、ぁ……ぁ……!」 「気持ちいい……?」 「っ……、」  熱い声で尋ねられても、そんなはしたないことを答えられるはずがない。  気持ちがいいかそうでないかは、股間の様子で分かるはずなのに。改めて確認しないでも、腰の奥のほうが疼いて疼いて、たまらないのに。  あられもない声をあげて、ウェザイルに眉をひそめられるのが怖い。この関係に後悔を覚えられるのが怖い。  分かってたけど、とウェザイルは小さくつぶやいて、再び深く、腰を突き上げた。 「っあぐ……!」  硬い切っ先が、鋭く奥のほうを突く。深くくわえ込んだ入り口をいじるように、一度深く突き上げてから、何度も熱く突き上げられる。その拍子に、たまらないところをえぐられて、ベラムはつま先を引きつらせた。 「……っああ!」 「ここがいい……?」  こともあろうに、ベラムが反応を示したそこを、ずんずんとウェザイルは容赦なく突き上げた。 「っいっぐ……、っああ! ああ! やっ……」  涙が散る。ずぷっ、ぐぷっとくぐもった音が、下のほうから聞こえてくる。硬いもので弱い部分を強くえぐられ、ベラムは耐え切れずに吠えた。 「っひぐ、そ、そこ、そこはっ……、ああっ! やっ、……ああ!」  何度も何度ものけぞるような快感が突き抜けていって、何がなんだか分からなくなる。視界は歪んで、言葉も覚束なくなる。口を閉じることすらかなわず、開いたままの唇から、唾液が伝い落ちた。 「っや、……いけま、いけません、もっ……」  嫌だ、嫌だと頭を振る。これ以上突かれたら、壊れてしまう。戒めていたいろいろなものが壊れてしまう。 「やめて、ほしい……、?」  途切れ途切れに、かすれた声が耳元で尋ねる。  その言葉の端々に、すがるような色が見え隠れしているのを感じて、ベラムは強く目を閉じた。やめてほしい、と口にすれば、きっと彼は無理やりにでもこれをやめるだろう。あのよくない笑い方をして。  やめてほしいなどと──言えるわけがないのだ。  受け入れられない行為であれば、最初から踏み出さない。罪深さに苛まれながら、それでもこの方に触れはしない。何より──  体の奥底の、戒めていたものが悶えて我慢できない。 「あ、……」  何かを言おうとした。だが、何を、どういえばいいのか分からない。ただ、やめてほしいとは言いたくない──

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