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第98話

「この格好の時に、また寄らせてもらうよ」 「洋菓子を用意してお待ちしております」  ふ ふ ふ とまた機嫌よさそうに笑いを漏らすと立ち上がった。 「苦手なものは苦手と言った方がいいぞ」  また顔に出ていたのかと口元を覆うが、それも笑いを誘っただけだった。 「では」  優雅な動作で頭を下げて挨拶し、計都にも会釈して出て行った。  はー……と息を吐くと、飴色のカウンター越しに計都がにやにやとこちらを見ている。  その笑みに腹が立って、鼻先をぴしりと叩く。 「もーぅ!!」 「あー……消耗した」  これを月に一回  うんざりする……と思ってしまうとバレるんだろう。 「おじーちゃん?楽しい人でしょ?」 「楽しい   」  楽しいと思える心の余裕が欲しい。  けれど、老人を見て計都が嬉しそうなのはいいことだとは思う。 「まぁ義実家付き合いと思えば、な」 「ふぇー?  あ、テンチョ、喉乾いたー」  水でも渡してバックルームに放り込めばいいだけの話だが、思わず材料を取り出してしまう辺り……これが惚れた弱みだろう。 「まえーに飲ましてもらったの、美味しかったよ」 「あー……あれか」  なんとなくで出したピンク色のカクテルの名前を思い出して、軽く吹き出しそうになった。 「テンチョ?」 「あれか!  そうだな、じゃああれのアレンジで作るか」  牛乳とレモンのリキュール、それから……? 「グレナデンと  カンパリよりピーチ、かな?」  柔らかに、鮮やかに色づいたミルキーカラーのピンク。  きっと、これから先も作り続けるレシピだろう。 「お酒、きつい?」 「いいや。また運ばなきゃならなくなるだろ」  またお姫様抱っこで運ぶのも満更ではないが、壱の視線の痛さは堪える。 「なーんだ」  つまらなさそうに言って、計都はオレが差し出したグラスを両手で受け取った。  掲げて覗き見て、きょとんとした顔でこちらを見てくる。     ふわふわとしたピンクの髪と、すぐ傍で揺れるフラミンゴ色の飲み物に、気づけば笑いが漏れていた。 「好きなだけくれてやる」 「テンチョのミルク?」  意味ありげに笑い返してくる計都の額を弾く。 「下ネタ禁止」  痛いだろうに、額を押さえてふふふと笑う計都の頬にはえくぼは見えない。 「テーンチョ」  美味しそうに飲む淡いフラミンゴ色のカクテルの名前は、もう決めてある。 「だぁいすき!」  幸せそうに微笑む計都を、フラミンゴにするための飲み物だから……    END.

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