99 / 101
第98話
「この格好の時に、また寄らせてもらうよ」
「洋菓子を用意してお待ちしております」
ふ ふ ふ とまた機嫌よさそうに笑いを漏らすと立ち上がった。
「苦手なものは苦手と言った方がいいぞ」
また顔に出ていたのかと口元を覆うが、それも笑いを誘っただけだった。
「では」
優雅な動作で頭を下げて挨拶し、計都にも会釈して出て行った。
はー……と息を吐くと、飴色のカウンター越しに計都がにやにやとこちらを見ている。
その笑みに腹が立って、鼻先をぴしりと叩く。
「もーぅ!!」
「あー……消耗した」
これを月に一回 うんざりする……と思ってしまうとバレるんだろう。
「おじーちゃん?楽しい人でしょ?」
「楽しい 」
楽しいと思える心の余裕が欲しい。
けれど、老人を見て計都が嬉しそうなのはいいことだとは思う。
「まぁ義実家付き合いと思えば、な」
「ふぇー? あ、テンチョ、喉乾いたー」
水でも渡してバックルームに放り込めばいいだけの話だが、思わず材料を取り出してしまう辺り……これが惚れた弱みだろう。
「まえーに飲ましてもらったの、美味しかったよ」
「あー……あれか」
なんとなくで出したピンク色のカクテルの名前を思い出して、軽く吹き出しそうになった。
「テンチョ?」
「あれか! そうだな、じゃああれのアレンジで作るか」
牛乳とレモンのリキュール、それから……?
「グレナデンと カンパリよりピーチ、かな?」
柔らかに、鮮やかに色づいたミルキーカラーのピンク。
きっと、これから先も作り続けるレシピだろう。
「お酒、きつい?」
「いいや。また運ばなきゃならなくなるだろ」
またお姫様抱っこで運ぶのも満更ではないが、壱の視線の痛さは堪える。
「なーんだ」
つまらなさそうに言って、計都はオレが差し出したグラスを両手で受け取った。
掲げて覗き見て、きょとんとした顔でこちらを見てくる。
ふわふわとしたピンクの髪と、すぐ傍で揺れるフラミンゴ色の飲み物に、気づけば笑いが漏れていた。
「好きなだけくれてやる」
「テンチョのミルク?」
意味ありげに笑い返してくる計都の額を弾く。
「下ネタ禁止」
痛いだろうに、額を押さえてふふふと笑う計都の頬にはえくぼは見えない。
「テーンチョ」
美味しそうに飲む淡いフラミンゴ色のカクテルの名前は、もう決めてある。
「だぁいすき!」
幸せそうに微笑む計都を、フラミンゴにするための飲み物だから……
END.
ともだちにシェアしよう!

