53 / 201

第53話 体育祭の朝

僕は思いっきり新鮮な朝の空気を吸って、 両腕を伸ばし深呼吸した。 今日の天気予報は晴れ。 明日からは雨に変わるそうなので、 丁度良いタイミングで体育祭が開かれる事になった。 「お母さんおはよう!」 僕はキッチンで朝食の準備をしているお母さんに モーニングのキスをした。 「要君、本当に応援に行かなくても良いの?」 僕の声を聞きつけて、お父さんが寝室から出てきた。 どうやらお父さんは、まだ僕の体育祭に来ることを諦めてないらしい。 「ダメだと言ったら、ダメなの! 絶対木の陰とかから覗いたりしないでよ!」 僕はそう言ってお父さんに牽制を掛けた。 お父さんはちょっとシュンとして可哀そうかな? とは思ったけど、中学生の時は凄く恥ずかしい経験をしたので、 高校生になった今では、父兄の参加は自由だったため、 絶対参加なしと決めていた。 「じゃあ、僕矢野先輩と公園で待ち合わせしてるからもう行くね。」 用意してあった味噌汁とご飯を 口の中に掻き込んで、早々と家を出た。 幸い今日の所持品は体操服とお弁当のみ。 手軽に、準備も早く済ませることが出来た。 公園まで来ると、矢野先輩はもう既に池の所で僕を待っていてくれた。 「先ぱ~い!」 急いで駆け寄ると、先輩はフンフン言いながら、手をクルクルとまわしたり、お辞儀したりしていた。 「先輩、何してるんですか?」 「これ、全校ダンスの練習。イメージトレーニングしてたところ」 先輩は僕に向かって、お手をどうぞと言うように手を差し出した。 「あ、先輩、そこ違いますよ」 そう言って僕は先輩の手を取った。 全校ダンスはフォークダンス。 先輩の練習していた部分は最初のパートナーを迎える部分らしかった。 「はい、先輩、パートナーが前に来たらこうです」 そう言って僕の手を先輩の手に乗せてお辞儀をした。 「大体さ、全校ダンスする意味ある? 今どき高校生にもなってフォークダンスって小学生かって!」 と、珍しくブウブウとしている。 先輩は余りダンスは得意ではなさそうだ。 というか、スポーツ全般あまり得意ではなさそう。 僕はαって大体、頭脳明晰、 スポーツ万能、容姿端麗だと思っていた。 でも三つ拍子が揃っているαって、 α社会のカーストの一番上に居る人たちのみの様だ。 矢野先輩はスポーツの部分が抜けていた。 「ほら先輩、最初は女子の手を取って軽く会釈するんですよ。」 先輩が軽く会釈した後で、僕達はステップを踏みながら移動した。 「あ、先輩、僕の足……」 「あ、先輩そうやって回ったら腕が……」 「あ、先輩そっちに行ったらパートナーが……」 「あ、先輩もっと近ずいて……離れすぎ~」 「おっとっと~」 先輩があまりにも強く力を入れて僕を引いたので、 僕は先輩の胸に倒れ込んでしまった。 僕の倒れ込んだ勢いに乗せ、先輩も倒れ込んでしまったので、 僕達は重なり合ってそのまま地に倒れ込んだ。 「痛・た・た・た~」 先輩が先に起き上がり、僕に手を差し伸べてきた。 「ごめん、ごめん、大丈夫だった?」 先輩の差し出した手を取り、立ち上がり、 少し汚れた制服をパンパンと叩いた。 「先輩、本番で女の子に恥をかかせたらダメですよ。」 「何故、要君が僕のパートナーじゃないんだろう!」 先輩はそう言いながらもう一度僕の手を取り、 僕をクルッと回してそう言った。 「それはですね、先輩、僕は女の子じゃないからです。 それに、団も違いますよ。」 「なんだよね~ 好きなパートナー選んで良いんだったら、 迷わす要君選ぶんだけど……」 「え? 本当に? 僕を選んでくれるんですか? 先輩、嬉しいです~」 「本当に嬉しい?」 「そりゃあ、嬉しいですよ~」 「じゃあ、好きなパートナー選んで良いんだったら、 要君も僕をパートナーに選んでくれるの?」 「もちろんですよ!」 「本当に? ……裕也よりも?」 僕はビクッとして先輩を見上げた。  

ともだちにシェアしよう!