52 / 201

第52話 逃げなくちゃ!

僕はゲゲっと思い、 「じゃ、青木君、僕は帰るのでこれで~」 と言うと、 「お前、何しにここまで来たの?」 と聞き返された。  僕はちょっと明後日の方向を見て、 「あ~ ちょっと体育館まで来たら女子が群がってるから、 何かあるのかな~って人気の少ないこっちに回って確かめに来ただけですよ」 と答えた。 「あ~ あの人だかりな。 まぁ、今は体育祭時期で少ない方だがもうすぐインハイあるから、 これから多くなるぞ~」 「そうなんですね~ 運動部も大変ですね。 でも、頑張ってください。 インハイは奥野さんと応援に行きますからね」 そう言って僕は出入り口の方を見回した。 「僕、ちょっと気遅れしてしまいました。 女子のパワーは凄いですね~」 そう言ってもう一度女子のパワーに関心していると、 青木君も、うんうん、と僕に同意して頷いた。 「青木! いつまで話してるんだ! もうすぐコートが開くからネット張りの準備!」 向こうから佐々木先輩が叫んでいる。 「ヤベッ! 俺行かなくちゃ」 そう言って青木君は急いで走って行った。 僕もヤバッ! と思い、サッとドアから離れた。 先輩、青木君が話してるの僕って分かったかな? そんな事を思いながら、その場をそそくさと去った。 体育館のサイドにある階段に差し掛かった時、 誰かに腕を掴まれ、階段の角に出来る死角部分に引き込まれた。 僕は一瞬恐怖におびえたけど、 「お前、俺の活躍見ないで帰るのか?」 の声に、腰を抜かしたようにヘナヘナと地に座り込んだ。 「あ、すまん。 驚かせたか?」 僕はキッと先輩の方を睨んで、 「驚かせたか? あたりまえじゃないですか! 僕、心臓が止まるかと思いましたよ!」 「いや、お前の姿を見たら居てもたってもいられなくてさ。 少しでも声を聴こうと急いできたんだ。」 「それだったら、普通に声かけて下さいよ!」 「いや、ほら……」 そう言って先輩は僕の手を取って僕の肩に頭を乗せた。 「ちょっと充電」 あっ、そっか。 こんな事、人前では出来ないよな。 それに先輩はとても疲れていそうだった。 「先輩、疲れてますか?」 先輩は僕を見上げて、 「まあ、ちょっとな。 5分だけな」 そう言って先輩は僕の首に唇をあてて、 少しスンスンと香りを嗅いだ後、 大きく深呼吸をして、 僕の首筋に数回キスをした。 先輩の唇が当たった首すじがジンジンと熱を持って熱く感じた。 「OK, 充電終了。 俺また戻るから。 お前は今から帰るのか?」 「はい、その予定ですけど……」 「そっか、ま、体育館は人が多いからな、 ここに居るよりはそれが良いかもな。 気を付けて帰れよ」 そう言って先輩は少し迷った様にして、 僕に顔を近ずけて来て、そっとキスをした。 でも何時もより長いキスだった。 そして先輩は僕から離れると、フッと微笑んで、体育館の中へと消えていった。 先輩は段々とキスの仕方が当たり前のように大胆になってきている。 それがなんだかくすぐったかった。 先輩の背中を見送りながら、そこに立ち尽していた僕に、 火照った肌に気持ち良い風が吹いた。 僕は先輩がキスをくれた首筋をさすりながら空を眺め、 もうすぐ梅雨がやってくるな~ と思いながら帰路に就いた。

ともだちにシェアしよう!