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第65話 僕の借りものは?

借りもの競争の順番は、100M 走と同じで、 背の高い順に並んだ。 「もっと変化を付けるために、 違った順番で競争やらせればいいのに!」 「そうだよな、 でもさっき順番取れなかった者も 借りものだったら一番狙えるかもだぞ」 「お前、好きな子だったらどうする? ヒッヒッヒ」 など色々な声が聞こえてきて、 誰でも考えるのは同じなんだな~ と思った。 ただ一番の憂鬱は、 櫛田君とまた 競わなければいけないと言う事だった。 ピストルの音と共に、 一番の走者が走り出した。 この中には青木君が居る。 僕はドキドキしながら その行く末を見ていた。 青木君が一番乗りで 借りものカードを取った。 そして彼は一目散に 3年生のテント目掛けて 走って行った。 一体何を見つけてるのだろうと思ったら、 自分のチームの団長だった。 青木君は100M 競争同様、 借りもの競争も一番でゴールした。 中には校長先生や、 野球のバット、 保健の先生や ヤカン、 ハサミや スーツなど、面白いものが 次々と出てきた。 僕の番になって、 何が出て来るのだろうと ドキドキとしていた。 ピストルの音がして、 少しビクッとしながらもスタートした。 やっぱり走るのが遅いボクは 一番最後にカードを引くことになった。 櫛田君は一番でカードを取ったけど、 借りるものを見て、オロオロとしていた。 それを見た時、きっと彼のカードは、 好きな人では無いと思った。 もしそうだったら、 一目散で佐々木先輩の所に掛けていくはずだ。 そして最後に残った僕が引いたカードに 書いてあった借りものは…… 『生徒会長』 ドキンとした。 手が震えた。 宝くじにでも当たったような感覚だった。 “好きな人”では無かったけど、 こういう偶然って ホントにあるんだと不思議に思った。 一瞬そこで金縛りになったけど、 ハッとして生徒会役員席まで、 一目散にかけて行った。 僕の姿を見た佐々木先輩が、 期待をしたような顔で僕が付くのを待っていた。 「佐々木先輩!」 僕がそう叫んだ瞬間、 先輩が僕の手を取って走り出した。 僕が先輩を狙って走ってきている事が、 まるで分っていたように。 借りものが人物で 手をつないでゴールをした人たちは 今まで居ない。 みな借りものになった人が、 後を付いて走った。 でも僕達は違った。 手に手を取り合って、 まるで恋人同士が手をつないで スキップをしているような、 いや、実際には走っているのだが、 僕があまりにも遅いので、 佐々木先輩が、僕の歩調に合わせて ゆっくりと走ってくれた。 でも、リードして走るのは、 借りものをした僕では無くて、 借りられた佐々木先輩だった。 周りの応援席からは、 「いいぞ! 佐々木!」 「ピューピュー」 「やんや、やんや」 「赤城ク~ン!」 「よ! お二人さん!」 と言った声が聞こえてきた。 人ごみの中に怒りに満ちた 長瀬優香先輩の姿を見たような 気がしたけど、 僕は気付かないふりをして 走り続けた。 そしてそのまま僕達は手を取り合ったまま、 一番最後にゴールした。 ゴールした後も、 僕達は手をつないだまま ビリの8等席に座った。 そしてそんな僕達を 睨んでいる人がいた。 勿論櫛田君だ。 彼の借りものはお皿だったのが悔しかったのか、 櫛田君はわざとお皿を地面に投げつけて、 割ってしまった。 一斉に皆が櫛田君の周りから飛びのくと、 束さず佐々木先輩が指揮を執って、 割れたお皿の後かたずけの指示を出していた。 お皿の角でわざと指を切った櫛田君は、 僕が唖然とする中、 佐々木先輩に甘えたような態度を取り、 ケガした指を盾に、 佐々木先輩に連れられて 救護班のテントに連れていかれた。 そんな中彼は僕の方を肩越しに振り向いて、 僕に向かってフフンと笑った。

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