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第72話 青木君の呼び出し

僕は少し後ろめたい気がして、 サッと視線をそらした。 その後僕は、何だか怖くて 佐々木先輩の方を 振り向く事が出来なかった。 今度は佐々木先輩の事で 頭がグルグルとしていると、 “パーン!”  というピストル音と共に、 びっくりとして気を取り戻すと、 既に第1部の文化部のリレーが始まっていた。 何とか気を取り戻して チラッと佐々木先輩の 立っていた方を向くと、 もうそこに佐々木先輩は居なかった。 リレーの走者はあっという間に アンカーになり、 美術部は3位で矢野先輩にバトンが渡った。 僕は、矢野先輩を一所懸命に応援した。 やはり先輩は早かった。 2位とはそこまで差は無かったものの、 大幅に差をつけていた一位の軽音部に追いつき、 あっという間に追い越してしまった。 そして父兄応援席から、 大胆にも大声でハンカチを振り回し、 応援するお父さんの姿が見えた。 それは余りにも目立ったため、 僕の周りで、文化部の応援をしていた 人達の間から、 「あれ誰?」 「誰かの父兄?」 「なんか矢野先輩を応援して無かった?」 「矢野先輩のお父さんじゃ…… 無いよね?」 「美術部関係?」 「それにしても変な親父だな」 等の声が上がり始めた。 僕は少し恥ずかしくなり始めて、 他人の振りをしようと決め込んだ。 でもそこに、一番でゴールをした矢野先輩が、 ゴール傍に立つお父さん目掛けて走り出し、 お父さんに抱き着いた。 僕はヒ~と思いながらも、 先輩とお父さんて 本当に気が合うんだな~ と言う様なことを考えていた。 そして肩を組んだ二人が その後生徒皆に向かって大手を振ったことは、 僕は見なかった事にした。 美術部のリレーが終わり、 僕が生徒の応援席に戻ろうとした時に、 青木君が僕を呼びに来た。 付いて来いという青木君を先頭に、 僕は青木君の後を付いて行った。 そこは出番を待つ運動部のグループで、 青木君が僕を誘導したところは、 佐々木先輩の待つ、リレー選手の控場だった。 佐々木先輩の顔を見た途端、 僕は泣きそうな気持になった。 僕と佐々木先輩と青木君は、 少し皆から離れたところで少し話をした。 「俺、カモフラ~ジュ!」 そう言って青木君が右手を挙げた。 僕が、 「???」 と言う様な顔をしていると、 「まあ、三人で話しているようにみえるだろ?」 という先輩に、“なるほど!” と思った。 そう思って、 「えっ?!」 と声を上げてしまった。 青木君はちょっと気不味そうに、 「あ~いや、先輩と要の事、聞いたよ」 と言った。 「俺がどうしても、出てこれないところがあるから、 誰か見方が居た方が良いと思ってな。 幸い青木とは中良さそうだし、 言っても良いかな?と思ってさ。 浩二を味方につけるのはちょっと癪だったし」 先輩はそう言って少し照れた。 僕は少し呆気に取られていたけど。 「ま、そう言う事だよ!」 と青木君が僕の肩をポンと叩いた。 確かに僕達三人が話をしてるのは、 何の特別な事情ではない様に見えるだろう。 僕は先輩の計らいに感謝しながらも、 やはり、さっきの事は少し先輩に対して 後ろめたい気持ちがあった。 「心配するな。 浩二とは一度腹を括って 話さなきゃとは思っていたんだ。 いい機会だよ」 そう先輩が言った。 「あの…… 実は……」 僕がそう言った時、 先輩の顔色が変わった。 先輩の顔色を見て僕は慌てて、 「いえ、違うんです。 先輩と別れようとは思っていません。 実を言うと、矢野先輩には僕から 佐々木先輩と付き合っていると言ったんです!」 と話した。 先輩は僕を見て、凄く嬉しそうに、 「自分から言ったのか? 大丈夫だったのか? 何か言われたか?」 「何かって言うと?」 「例えば、やめておけとか…… 祝福するとか……?」 「そう言えば、矢野先輩、 ちょっと不審な感じでした。 どう言ったら良いか 分からないんですけど、 ちょっと説明し難い感じで…… 少し変でした」 先輩は何か少し考えたようにして、 「今は時間が無いから、 今夜電話する。 浩二とも話さないといけないし、 お前が俺たちの事 既にばらしたんだったら、 話は早いな。 後は俺に任せておけ」 佐々木先輩がそう言うので、 僕はお願いしますとお辞儀をして、 自分の応援席に戻って行った。 そしてそんな僕達を、 アーチェリー部の リレー選手の中に居た長瀬先輩が、 すっと伺っていたらしく、 通りすがり、 ずっと僕の事を疑惑の目で追っていた。

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