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第96話 インハイ予選 2日目
フン~ フン~ フン~ ♬♪♫~
僕は知らず知らずのうちに
鼻歌を歌っていたいみたいだ。
「どうしたんだ?
今日は機嫌がいいみたいだね」
お母さんがシャワールームの脱衣場から
僕に声を掛けてきた。
「分かる?
僕ね、Ωに生まれて
凄っい幸せだって感じてるんだ!」
「ん~?
何? シャワーの音が大きくて聞こえないよ?」
僕はそっとドアを開けて顔を出して、
「僕ね、Ωに生まれて
凄い幸せを感じてるって言ったんだよ!」
そう言うとお母さんは嬉しそうに、
「親にとって、Ωの子供から
そう言うポジティブな言葉を聞くのは凄く特別だよ!
青春してるんだね!」
と言った。
「うん、僕、好きな人がいるって
こんなに幸せだって思いもしなかったよ!」
そう言うとお母さんは目を細めて、
「成長したんだね~
あっという間だよ」
感慨深そうにそう言った。
「じゃあ、洗ったタオル、
補充しておいたから。
予備のシャンプーなんかも
シンクの下に補充しといたから、
必要だったら詰め替えておいて。
僕はもうベッドに行くから、
余り遅くならないように。
明日も応援行くんだろ?」
「うん。
明日は朝一で出るから、
お母さんは寝てても大丈夫だよ。
じゃあ、お休み」
そう言って僕は体に着いたソープを
洗い流し、お母さんは自分の寝室へと行った。
寝る前に先輩にメッセージを出しておいた。
“明日も同じメンバーで応援に行きます。
奥野さんが沢山お弁当を作ってきますで、
一緒に食べましょう。
青木君も一緒です!”
そうすると直ぐに、
“オッケー
しっかり睡眠取れよ。
もう倒れられるの嫌だからな”
と返事が来た。
“大丈夫です。
今から寝るところです。
お休みなさい。
また明日!
先輩、大好きですよ!”
“お休み。
俺も要が大好きだ。
……なんか改まると恥ずかしいな💦”
僕はそのメッセージを胸に、
眠りについた。
僕はその夜は久しぶりによく眠れた。
それまで眠れなかったと言う訳では無いけど、
朝起きた時に、太陽の日が気持ちよく、
すっきりとしていて、
よく眠ったと久しぶりに感じた。
朝起きて、窓を開けると、
梅雨特有の湿った空気が入って来た。
午前は晴れだけど、お昼から雨になりそうだった。
うちのマンションでは自動車は
機械式の立体駐車場があるけど、
自転車は各自室保管になっているので、
一回一回自転車を使う場合は
下まで降りるのが面倒だけど、
今日はそれさえも嬉しく感じた。
マンションを出て自転車に乗ると、
僕は勢いよく公園目掛けてペダルを踏んだ。
「先ぱ~い!
おはようございま~す!」
僕の顔を見て、先輩の顔がパ~ッと華やいだ。
そして、
「うん!
今日は顔色が良いね。
元気も戻ってるし、
要君の周りの空気も昨日とは全然ちがうよ!」
と嬉しそうに言った。
僕はエへへ~とテレて、
「ありがとうございます。
これも、先輩が一重に
支えてくれるおかげです!」
と言うと、先輩は嬉しそうな顔をしたけど、
同時にどこか遠くを見てるような感じでもあった。
奥野さんとは学校で落ち合う事になっていた。
僕と先輩が校門前で待っていると、
向こうから、大きなバックパックを背負った奥野さんが、
えっちらおっちらと自転車を漕いでやって来た。
真っ赤になって汗をかいた奥野さんは、
「いや~
皆が食べてくれると思ったら、
お昼頑張って作りすぎちゃった~」
とフ~フ~言いながら手で顔を仰いでいたので、
「僕もいくつか持てますよ。
分けることは出来ますか?」
と聞くと、
「うん、 お願いできるなら……
全部タッパに入ってるから今ちょっと分けるね。」
そう言て奥野さんは6重箱の様に重なった
大きなタッバをバッグから出して、
2個を僕に、もう2個を先輩に渡した。
「は~ 肩が軽くなって
ラクチン、ラクチン!」
と肩をコキコキと鳴らしていた。
会場へ着くと、そこは既に熱気に覆われていた。
僕達は2階応援席へ上がり、
団幕の前に陣取った。
暫くすると青木君たち一年生もやって来て、
試合が始まった。
昨日青木君が言ったとおり、
今日は少し見栄えがあった。
午前の部では、2戦あり、
僕らのバレー部は順調に勝ち進んでいった。
お昼ご飯は、試合の合間にするらしく、
とても慌ただしい時間となった。
でも奥野さんのお弁当はやっぱりおいしくて、
佐々木先輩と青木君が午後の部に戻った後も、
僕達は暫くのんびりとお弁当を突いていた。
午後からの準決勝は凄かった。
いくらうちの部が優勝候補と言っても、
準決勝まで来ると、
やはり試合は凄かった。
バレーボール自体を知らない僕には、
準決勝でさえも、
決勝の様な活気さをみて、
スポーツをする人達は本当にすごいなと思った。
準決勝に勝った先輩たちは、
インハイへの切符をつかんだ。
負けたチームは残念だったけど、
それでも凄いなと思った。
そして次は決勝だった。
僕はドキドキが止まらなくて、
何度も目を閉じた場面があった。
応援席も熱気が凄く、
もう青木君の声もガラガラに枯れてしまっていた。
僕も一緒に一杯声を出して応援した。
あんなに大きな声を出して
何かに熱中したのは初めてだった。
そしてあんなに佐々木先輩を
カッコいいと思ったのも初めてだった。
試合終了のホイッスルが鳴った時は、
思わず涙が出た。
感無量という感じで、
色んな思いがごちゃごちゃと入り混じって、
先輩が大きく手を挙げて勝利を仰いだ時は、
そのまま先輩の胸にダイブしたいと思ったほどだった。
そして
“彼が僕の大好きな人です!”
と大声で叫びたいと思った瞬間だった。
それくらい佐々木先輩はカッコよかった。
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