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第130話 3学期
僕達の短かった冬休みもあっという間に終わり、
1年生最後の学期がスタートした。
「ねえ、ねえ赤城君、
もう殆ど3年生、学校に来てないね……」
朝登校したときに、下駄箱の所で奥野さんに会い、
そう言われ、卒業がもうそこまでやってきているんだと言う事を
実感して来た。
周りを見回すと、本当に3年生の気配を
感じることは出来なかった。
何時もだと、にぎやかな踊り場も、
シーンとしている。
「嫌だ、先輩達と別れたくない!
置いて行かれたくない!」
僕は奥野さんにすがるように話し掛けていた。
「うん、赤城君の気持ちわかるよ。
矢野先輩も、佐々木先輩も、もうすぐ居なくなっちゃうんだよね。
もうこの校舎で会うことも無くなるんだよね。
そう思うと凄く不思議だよね。
気付けばさ、何時も私達の後ろに居たもんね~
ニヤニヤとしてさ。
未だって後ろを振り向けば……」
そう言って二人して後ろを振り向いたけど、
そこには木枯らしが吹き抜けるかの如く、
閑散として、3年生はおろか、人影さえも無かった。
奥野さんは慌てて、
「でもさ、これが今生の分かれって訳じゃないんだから!
矢野先輩も、佐々木先輩も、
学校の外では今までの様に付き合っていけるよ!」
と慰めてくれた。
奥野さんはそう言ってくれたけど、
まだ長瀬先輩とのことも解決してないし、
矢野先輩も最近凄く不審で怪しいし、
僕は心配で心配でたまらなかった。
でも、どんなに不安になっても、
心配しても、時間は否応なく進んでいく。
特に、3学期は、瞬きをする様に早く時が過ぎて行った。
バレンタインも、男同士でやるのは気が引けて、
僕はスルーしてしまった。
現に、矢野先輩も、佐々木先輩も受験の真っただ中で、
バレンタインどころでは無かった。
でも、奥野さんからは、義理チョコとして、
手作りのチョコをもらった。
青木君は初めての本命チョコに
ワクワクとしていたらしいけど、
バレンタインの1週間くらい前から
ソワソワとしていたのはこのためだったのかと納得した。
でも蓋を開けると、青木君はモテた。
やっぱり運動をしているせいか、
高校生の時って、勉強ができるよりも、
運動できた方がモテる様だ。
朝青木君が手提げにいっぱい入ったチョコレートを持って
教室に現れた時は、僕と奥野さんはびっくりした。
奥野さんと青木君は公認の仲なのに、
そんなことは一向に気にしない人々がいる事を知った。
まあ、佐々木先輩に婚約者が居るにもかかわらず、
モテていたことを考えると、分かっていたことかもしれない。
それじゃ、付き合ってる相手の影も形も無い矢野先輩には
どうだったんだろうと考えると、
もう好奇心しか無かった。
そんなバレンタインも早々と終わり、
先輩たちの入試の日はすぐそこまでやって来ていた。
僕と佐々木先輩は、相変わらずラインで話をしてはいたものの、
会う事はかなわず、寂しい日々を送っていた。
入試の前日に、何時ものようにラインがやって来た。
“まだ起きてるか?”
“起きてますよ。
先輩はまだ勉強中ですか?
明日はいよいよですね!
先輩、落ち着いてますか?
今夜は早めに切り上げて、
ちゃんと睡眠取って下さいね”
“まあ、受験ごときで俺が落ちるわけ無いだろ。
お前の方こそ落ち着け!
ソワソワしてるのが目に見えるようだぞ”
“でも、入試ですよ。
大学入試ですよ?
高校の期末じゃないんですよ?
そりゃあ緊張しますよ!
先輩の未来が掛かってるんですよ!”
“ハハハ、俺の未来が掛かってるのは
お前にだけだよ!
お前こそ早く寝ろよ。
明後日試験が終わったら、
パーっと遊ぶぞ!”
“それって、おあずけ解禁って事ですか?”
“おあずけって……おまえ、イヤらしい言い方だな”
“……だって……先輩が足りない……”
“お前な、煽るなよ!
あの日以来、寝ても、覚めても、お前の姿がちらついて、
もう心頭滅却するのに精も根も尽きたよ”
僕は急に恥ずかしくなった。
別に先輩が僕の顔を見て話している訳じゃないのに、
僕はか~っとなって、顔を覆ってしまった。
“先輩~、僕そんな意味で言ったんじゃ無いですよ~
もう寝ますので明日はガンバですよ!”
“ああ、任しとけ。
じゃあ、温かくして寝るんだぞ”
“はーい!
お休みなさい”
“お休み”
そう言って僕達は会話を終えた
そして、矢野先輩にも激励のメッセージを送ろうと思い、
先輩にもラインした。
“先輩~ 明日の準備は万端ですか?
緊張せずに頑張ってくださいね!”
そう送信すると、先輩からも、
“僕は準備万端だよ~
要君も遅くならなうちにベッドに行くように!”
“は~い!
先輩、最後の最後になって風邪ひかないように!”
“ハハハ、僕は要君とは違うから大丈夫だよ~
おへそ出して寝るんじゃないよ~”
“ 😡 大丈夫ですよ~”
そう言って僕達は会話を終えた。
そして明日はいよいよ先輩たちの高校3年間を掛けた大勝負の日。
僕はそう思うだけで、緊張して
目がギンギンにさえて、眠る事さえできなかった。
頭の中では早くも仰げば尊しの音楽が延々と流れ、
最後には涙までも出てきてしまった。
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