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第129話 お泊り会2

奥野さんのあっけらかんとした質問に対して、 青木君が慌てて、 「お、お前、バッ……」 と奥野さんを止めようとした。 僕は笑って、 「大丈夫だよ青木君、気にしてないから。 実を言うとね、彼らの関係は僕もよく分からないんだ。 佐々木先輩を見てると、僕が思うよりも大変なのかな? って言うのは分かるんだけど……」 と答えた。 「そう、そう、そこはちょっと僕も興味があるところなんだよね! 僕の可愛い要君をこんなに困惑させやがって~」 とお父さんが横から投げかけてきた。 「あ、じゃあ、幼馴染である僕がちょっと説明しま~す!」 そう言って矢野先輩が右手を挙げた。 「裕也の家が政治家・家系って事はみんなもう知ってるよね?」 矢野先輩がそう言うと、皆うん、うんと頷いた。 「長瀬家はね、長きにわたって裕也の家を支えてる家なんだよ。 まあ、早く言うと、長瀬家と佐々木家は、 ギブ・アンド・テイクの間柄なんだよね。 長瀬家が、選挙の時、資金面で凄い部分を援助してるんだよ。 で、政治的絡みを佐々木家が長瀬家に与えてって感じで。 だから、佐々木家の政界進出は長瀬家なしにはあり得ないし、 長瀬家の旧家の格調を保つためには、 佐々木家無しでは成り立たないんだ。 で、ターゲットになったのが、裕也と優香。 ラッキーだったのか、アンラッキーだったのか、 ちょうど同じ時期に男と女として両家に二人が生まれてさ、 もうお互い、かなり盛り上がったらしいよ。 婚姻を交わせば、これほど強い味方は無いってね」 「うわ~ 重……」 そう言ったのはお母さんだった。 「それじゃ、佐々木君も、その優香さん?も 可哀そうよね? 家の犠牲になって……」 「それがですね、裕也ってかっこいいですよね? 容姿端麗、成績優秀、スポーツ万能でしょう? 優香が凄い入れ込んじゃって、 単なる政略結婚では収まらなくなったんですよ」 「あ~ 本気になっちゃったって事だったんだね~」 「はい、裕也もずっとそれで良いって思ってたらしいんです……」 「思ってたと言う事は?」 お母さんが尋ねた。 「まあ、僕が原因なんですが……」 「あ、僕、佐々木先輩に聞きました! 佐々木先輩は、最初、Ωと番う事なんてこれっぽちも 思って無かったって」 僕がそう言うと、お父さんが束さず、 「何だとー!」 と横槍を入れた。 「まあ、まあ、お父さん、 お父さんもαだったら分かると思いますが、 α社会の人ってそう言う人ばっかりじゃないですか~ 特に、α社会で小さい時からα、α、α、って育てられていると。 お父さんの様に、愛ゆえにΩと番っているのってそうそう居ませんよ! お父さんはお母さんと巡り合えて、 番になって、愛ある家庭を築けて、凄く恵まれていると思いますよ。 αってΩを子供を産む道具にしか考えて無い人も多いし、 Ωだってα嫌悪持ってる人多いし…… 番っても多くが不幸になってますよ?」 と矢野瀬先輩が言うと、単純なお父さんは テレテレとしていた。 「で、矢野先輩の所為って…… 何が佐々木先輩を変えたんですか?」 奥野さんが尋ねた。 「実を言うと僕ね、小さい頃から運命の番に憧れててね~ 絶対番うんだったら、Ωって決めてたんだよ。 で、運命に出会えれば、もう思い残すことは無いってね。 僕の全てを無くしても良いから、 運命と出会わせてくれって、 何度願った事か…… 未だ現れて無いけどね……ハハハ まあ、僕がそんなん調子で、 失恋する度に裕也の所に駆け込んでたんだよ…… そんな僕を慰めるうちに、 裕也も疑問に思ったみたい。 何故僕がそこまで運命の番に入れ込むのかって。 運命の番って完全に都市伝説化してたしね。 そこからかな? 裕也も、もしかしら 自分にもいるかもって思うようになって…… 探しては諦めて、探しては諦めて…… まあ、裕也自身も要君を見つけるまでは旨く行かなくて、 凄く葛藤があったみたいだけど、 実際に見つけたんだよね~ 要君を! 探して、探して、探して…… これって奇跡に近い確率だよ?」 先輩が言い終わった途端、お母さんと奥野さんが、 「イヤ~ン、ステキ!」 と声をそろえて言った。 「僕の運命の番なんてそこに立ってただけだったのに、 そんな思いで探してもらえるなんて…… 本当に失った半身を魂が探し求めてるって感じ! いいね~ 要! 僕、恋バナ大好き!」 それを聞いたお父さんが、 「優君!」 と叫んだのは言うまでもない。 矢野先輩も、 「まあ、まあ、お父さん、只立ってただけで 巡り合うって言うのも凄い事ですよ。 それこそ、惹かれあって、磁石の様に 引き合わされた運命って感じじゃないですか!」 とお父さんを慰めると、 「何で矢野君が要君の運命じゃないの~!」 と今だ言っていた。 「でもさ、佐々木先輩、 家族のしがらみを断ち切って赤城君と番うって 大変な事なんじゃない?」 その奥野さんの言葉に僕は、 少し怖くなった。 僕が前から考えない様に、目を背けてきたことだ。 僕は佐々木先輩が好きで、好きでもう、先輩無しではダメだろう。 他の人と番なんてもう恐らくできない。 佐々木先輩の長瀬先輩の関係を真に知るのは、 凄く怖かった。 僕はずっと、佐々木先輩はただ、幼馴染家族同士の語らいの中で、 婚約だとかいう話が出たのだと、軽く思っていた。 結婚出来ればラッキー、出来なければそれでも良いか~ 見たいな? いや、そう思いたかっただけなのかもしれない。 でも、そんな重い裏話があったなんて…… 何も言えなくなって黙ってうつ向く僕に矢野先輩が、 「要君、大丈夫だよ。 裕也もバカじゃない。 今はまだ受験とかで大変な時だけど、 ちゃんと、一番いい方法で婚約破棄する事を考えてるって。 やっと見つけた要君を、そう簡単に手放したりしないって!」 そう言って、肩をポンポンと叩いて慰めてくれた。 「そうだよ、赤城君、 今は佐々木先輩を信じる事しか出来ないけど、 私達まだまだ高校生だから、 解決する時間はたっぷりあるよ! 微力だけど、私も精一杯応援するから!」 そう奥野さんが言うと、皆が僕を、ギュッと抱きしめてくれた。 「ホント、皆いい子だね~」 お父さんがそう言う横では、お母さんが涙ぐんでいた。 「僕も本音を言うと、司君に出会う前は αに凄い嫌悪感を持ってたんだ。 僕の知り合いのΩに、αにもてあそばれて、 番わされて、捨てられた人が居たから。 両親には悪かったけど、自分がΩだって事を凄く呪ったよ。 最初Ωの男の子産んだ時は僕みたいに 世間を恨んでしまったらどうしようって、不安で、不安で…… でも、自分を信じて、要をしっかりここまで育てて良かった。 高校にはいるまでは、凄く不自由な生活をさせたと思うけど、 高校に入って、沢山の出会いがあって、皆に愛されて、僕は凄く嬉しい……」 僕よりも喜んでいるお母さんが、僕は凄く嬉しかった。 僕は高校で本当に良い出会いをした。 最初は運命の番を見つける事だけが僕の目標だったけど、 僕はこんなにも恵まれて、愛する人たちを見つけることが出来た。 それは思っても居なかった事で、矢野先輩との一つの出会いが、 僕をこんなに変えてくれた。 そのことに対して、僕には感謝する以外出来ないけど、 僕は、僕の周りに居る大切な人達を、 一生をかけて僕なりに守って行こうと心に決めた日だった。

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