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第1話(しずく)
『もう、だめぇ、…でちゃ、う、ぅ』
飲み会の帰り道だ
今夜の寝床も確保できなくて
とりあえず漫画喫茶にでも行こうと思っていたのに
道端の路地で限界まで追いやられていた
どうしよう、
1歩も動けなくなっていた
お店を出る前にしてくれば良かった
ジワ、とパンツが湿る感じがして
急いで手を中心に持ってきて
ぎゅぅ、と握る
ちょっと出た
どうしよう、
いっそこの路地でしてしまおうか
漏らすよりはマシかもしれない
と、正常な判断は出来なくなって
身体が無意識に出そうとしているのか
中心を握っている手の下が
更にジワジワ、と温かくなる
その感覚にはっとして
脚をじたばたさせ
更に強く中心を揉みしだき
何とか耐える
もう、抑えている手の内側も湿ってきてしまった気がする
終電も無くなった夜の街の路地裏
人通りも少ない
このまま衣服をびしょ濡れにしてしまうよりずっとマシだ
そう思って
内股になって自分の中心を抑えながら
よちよちと人から見えないよう
更に奥の方に向かう
もうむり、
今すぐ出る、
もう出る
暗い路地裏で
脚をばたつかせ
どうにか、ベルトを緩めようとした時だ
「はぁ?連絡が取れない?どうすんだよ、明日の朝イチだろ。居ないだろ、他に依頼人の好みっぽい子。童顔色白なおかつキレイ系。直弥は…あー明日テストとか言ってたよな…」
と、後ろから聞こえてきた声にビクッと肩が跳ねてしまう
そして、
それがいけなかったのか
じわわぁあ、と一気に下半身が温かくなる
『ぁ、あっ、』
どうしよう、出てる
止まらない、
温かいのは
すぐにおしりの方まで広がっていく
それなのに、
さっきの
俺が漏らす原因となった声の人物の足音と、
恐らく電話で会話をしているであろう
声がこっちに近づいてくる
なのに、俺のおしっこは止まらなくて
びしゃびしゃと、地面に水が落ちる音が
「こっちも当たってみるけどお前も連絡取り続けてみて…ってちょっと待て、」
と、電話をしている
スーツのお兄さんとばっちり、目が合ってしまった
見られた、
大人なのに
おしっこ漏らしてるところ
見られた
「ちょっといい感じの見つけたかも。とりあえず保留」
と、言ってお兄さんは電話を切った
こっちに、くる
見られてる
おしっこ、漏らしてるの
見られてるのに
止まらなくて
更に足元には水溜まりが広がっていく
『あ、あの、…』
どうしよう、
言い訳しなきゃ
そう思うのに、なんにも言葉が出なくて
抑えていた俺の手はびしょ濡れで、
どうにも言い訳が出来ない状況だった
けど、そんなおれに
お兄さんは
にこっと笑いかけた
あきらかに、
一般の会社で働いている感じの人じゃない
『こ、これは』
怒られる、
俺のシマ汚しやがって(物理)的な、
高い金取られるかも
ちょろん、
と最後の1滴まで全部でたタイミングで、ようやく俺の口が開いた
『わ、あ、あの!おれ、金とか持ってないです!貯金ゼロです!家も無いです!全財産3000円です!ここ、汚しちゃった事はあやまるので、そうじも、するので…殺さないで!』
と、今まで言葉が出なかったのが嘘のように
俺の口は言い訳を始めた
しかし、
「大丈夫?」
と、お兄さんからは
予想外の言葉が飛び出した
『…へ、』
「おしっこ、漏らしちゃったの?」
『わ、あ、あの…がまん、できなくて』
お兄さんの優しい言葉で
怖いって感情より
恥ずかしいって感情の方が上に来ちゃって
今の自分の格好を隠したくなる
「大丈夫?帰れる?金ないんだっけ」
『えっと、かねなくて、漫画喫茶とまろうかと、』
「その格好じゃ無理でしょ?」
『えっと、どうしよう、』
「うちくる?近いし」
『……へ?』
「だって、いつまでもそんな格好でそこいても仕方ないでしょ?」
『いいの、』
「うん。おいで」
と、お兄さんは俺の背中を押して歩き出した
このお兄さんが何者がわからないし
もしかしたら怖い人かもしれない
けど、
下半身びしょ濡れで
路頭に迷うより悪い事なんて今はわからなかったから
とりあえずついて行くことにした
◇◇
「ちょっと待っててね」
と、高いマンションの上の方の階について
玄関でおれに待つようにいって
お兄さんは先に入っていった
すぐに戻ってきて
おれに白い、ふかふかのタオルをくれる
「拭いてから上がってきなよ。そのまま風呂行っていいよ、そこ左ね。中の物好きに使っていいから」
『は、はい』
と、言われるがまま、
拭いてからゆっくりと
広い、キレイなおうちに上がって
お風呂にいく
「着替え用意しとくから身体洗っちゃいな」
『は、はい』
と、何もかも言われるがまま
お風呂に入って
漏らしてから時間がたって
冷えてしまった身体を温かいシャワーで流す
ふええ、気持ちいい
助かった、とようやく思った
大人なのに漏らしちゃうなんて
どうなるかと思ったよ
身体を清めて出ると
部屋着用の服や
新しい下着まで用意されてて
有難く、それを着させてもらう
『あの、…お風呂、ありがとうございました』
「おー、サイズ大丈夫だった?」
『あ、は、い』
と、リビングで待つお兄さんの所に行くと
お兄さんは携帯で何かをしていた
『あの、なんて、お礼をしたらいいのか、』
「接触なし・基本的に着衣でおっけー・18歳から・制服貸出・日給2万から(2時間~)・オプションによりプラス料金。どう?ちなみに今なら住むとこ付けてあげる」
『は?』
「君、何歳」
『…23、きゅうがくしてたけど大学生、』
「思ったよりいってるね。まぁいいか」
『な、なにが、』
「働かないって聞いてるんだけど。金も住むところも無いって言ってたじゃん」
『いや、そうですけど』
「条件ぴったりじゃん」
『えっと、なんの、お仕事ですか?』
「さっきいったじゃん。風俗」
『ふう、ぞく?おれ、おとこですけど』
「うん。そういう風俗」
『えっと、どうていですけど』
「まじ?うける」
『うけないで!』
「で、やるの?やらないの?」
『やらないです、』
「なんで」
『だから、どうていだって、』
「道端で漏らしてただけあるな。バカかお前」
『そ!それは、』
「さっき言ったじゃん。接触なしって」
『接触なし?どうするの?』
「基本は依頼人とホテルで話すだけ」
『それだけ?』
「あぁ、まぁオプションによって後片付けまでしたいって人とか衣装指定とかあるけど」
『後片付け?』
「それは後々。最初は服も普通のでいいし2時間コースからでいいよ」
『えっと、』
「おいしいと思わねえ?住むところないんでしょ」
『ない、』
「ここ、住んでいいし。金出るし。送迎付き」
『話すだけなの、無理やりやられたりとか、触らされたりとか』
「ないない。ここは会員制で質のいい客しか取らねえし」
『えっと、それで、なんでお金もらえるの』
「キミ見た目だけはいいから。そういう子と関わりたい金持ちっているんだよ、世間には」
『へぇ、』
「やるよね」
『え?』
「助けてあげたじゃん。困ってたの」
『そ、それは、』
「とりあえず明日の朝1回だけ頼めない?お得意さん予約入ってたのにキャストの子が連絡付かなくてさ。明日は本当基本の2時間コースだけだし。どう?」
『えっと、』
どうしよう、
そんなよくわからない仕事、
「今日ここ泊まっていいし」
でも、この人
たすけてくれたし
「お得意さんだから安心だし、俺も外に待機してるからもし、仮に万が一何かあったらすぐ助けに行くし」
『えっと、1回だけなら』
「よし、決定。じゃあとりあえず今日は寝ような。もう遅いし明日早いから。おやすみ」
と、お兄さんは部屋から出ていってしまった
えっと、本当によかったのかな
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