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第61話(つむぎ)

カランカランカラン と、鳴る ドアに付いたベルの音は レトロでかっこいいと思う 祈織さんのおうちを出て 生活費を稼ぐ為にバイトを始めようと探してたんだけど 変に割のいいバイトをこの前までしていた為、コンビニとかの時給じゃ満足できず、 割の良さが決め手で始めた早朝の喫茶店のアルバイト 朝起きるのちょっと辛いけど 給料もまぁいいし、 コーヒーの匂いとかレトロな雰囲気とかカッコイイし、一緒に働いている人達もいい人だし大正解のバイトだった 朝の喫茶店は そんなに混雑はしないけど 朝の余裕のあるダンディな大人たちが集うからゆっくりな時間が流れていた おれもゆっくりダンディを意識しながら シルバーを磨く その時だ、 カランカランカラン と、ベルの音で顔を上げた お客様だ、 『いらっしゃいませー、お好きな席どうぞ』 と、いうと その人は端っこの席が定位置なのか さっさと座ったから おれは水を持っていく 『いらっしゃいま、ひえ!』 と、おれのゆっくりダンディは 見事に崩れ去り 情けない声が喫茶で内に響いてしまう だって、 「あれ、つむじゃん。なに、ここでバイトしてんの?」 『い、い、いおりひゃ、』 「うん、久しぶり」 いや、なんで、 確かに祈織さんの家から近いけど まさか祈織さんがこういう所来るとは だってゆっくりダンディじゃないし、祈織さん しかも普段はほぼスウェットかスーツ着てんのになんか知んないけど 普通にかっこいいお洋服きてるから気づかなかったし! 久しぶりにみた祈織さんはやっぱり顔が良い 「おれフレンチトーストがいいな」 『のみもの、どーしますか、』 「カフェラテのセットで」 『はい、』 と、祈織さんの注文を聞いてマスターに伝える と 「なに?知り合い?」 『は、はい』 「もうすぐ上がりの時間だし話してきてもいいよ」 と、許可をくれて おれは先にカフェラテだけ持って祈織さんのところに向かう 「ありがとー」 『うん、』 「ここでバイトしてたんだ」 『うん、今週から』 と、祈織さんの前の席に腰を下ろす 「戻んなくていいの?」 『もうすぐ上がりだからいいって』 「そっか、おれつむと話したかったんだよねえ」 『え!なんで!』 「ちょ、声でかい」 『ご、ごめんなさい』 「いや、だってずっと家に1人だからなんか慣れなくて。ここ1週間、箸くださいしか会話してなかったからさー」 それコンビニですね、と思いながらなるほど ちょっとうれしい 『祈織さん、しごとは、』 「うん、そろそろ動き出そうかなって」 『へえ、がんばって、』 「そしたらまた、ここくるよ、履歴書書いたりとか家だと集中出来ねえし」 『うん、まってる。たくさん来て』 「おれここのフレンチトースト好きなんだよね」 しらなかった、そうなんだ 『ここ、よく来るの?』 「たまに、フレンチトースト食いたくなったら来るかな」 『そうなんだ、』 と、そのタイミングでフレンチトーストが出来たから もう上がりだけどそれだけ取りに行って 祈織さんの前に出すと フレンチトーストの味わかるのかなってぐらいメープルシロップかけてた 「どう、新しい家」 『えっと、祈織さんの家よりぜんぜんせまいけど、まぁ…ちゃんと生きてる』 「そっか、つむはさっさとバイトも決めてえらいな。どっちが先に仕事決まるか勝負って言ってたのに」 『そ、そうだね、』 なんか、久しぶりの祈織さん緊張する いや、ずっと一緒に住んでたからさ、 『おれ、ちゃんと生きてるよ、祈織さんは、どう?』 「……おれは、お前に出ていって欲しくなかったんだ」 『え?、』 祈織さんは、 確かに言ってた 出ていかないでって 冗談みたいに 「でも、おれもずっと飼われてたから、お前が自立したいって気持ちもわかるから止めなかった」 『うん、』 「でも、おまえ、全然連絡よこさないんだもん」 『だって、なんて連絡したらいいか、』 「おれのこと、好きなんじゃねえの?」 『す、すきだよ、もちろん!』 「そっか」 と、祈織さんは笑った え、それだけ、 「おれは、もう少しお前と一緒に居たらお前のことほんとうに好きになってたかもね」 と、続けて笑った え、なにそれ どういうこと、 手遅れ? そんなの、聞いてないです! 『え、祈織さん、おれのこと、すきなの?』 「うん、まぁまぁ好きだけど」 『えっと、まぁまぁって?』 「言っただろ、もう少し一緒にいたらって」 あれ、 おれ、家出てくタイミング間違えた? 『え、おれ、祈織さんのこと、好きなんだけど?』 「え?知ってるよ?」 『そうじゃなくて、祈織さんは』 「お前が全身でおれのこと好きっていうから。つむのそういう所、すきだったよ」 『それじゃあ、おれと』 「うーん、お前居ないとさびしいし、なんで連絡してこねえの?おれの事好きなんじゃねえのって思ったけど。だって、お前出ていっちゃったじゃん?」 『そうだけど、それは』 「あとね、おれ気付いちゃったんだよね。お前がおれの事全身で好きっていうから、お前といる時の自分の事が好きだったんだなって」 『え?なにそれ、』 「だって、」 『もうちょっと頑張ったら好きになってくれる可能性あったって事?』 「…わかんないよ、そんなの。おれが聞きたい」 『え?じゃあおれ、頑張るから!また、ここ来て!』 「ええ?うん。いいけど。お前はそれでいいの?」 『うん!おれ、祈織さんを見返すぐらいいい男になって、祈織さんをめろめろにさせてやるから、待ってて』 「えっと、うん」 と、祈織さんは少し考えて言葉をつづけた 「なんかさ、よくわかんねえけど。おれ、お前には幸せになって欲しいって思ってるよ?そんなん思ったの、お前が初めてだよ」 と、最高にうれしい言葉をくれた 『おれ、祈織さんに出会えたのが幸せだったよ』 あの日、おもらしして途方に暮れていたおれを 下心があったにせよ助けてくれたのは祈織さんだ 祈織さんは何考えてるか よくわかんないけど 祈織さんと一緒に暮らすのは楽しかったし間違えなく幸せだった そして、祈織さんを大好きになって その祈織さんから そんな嬉しい言葉を貰えるなんて、 おれってちょうしあわせ者じゃん、 『おれ、祈織さんのことすきだよ。幸せになるようにがんばる』 「そっか、がんばれ」 と、祈織さんは笑った なんだよ、もう 顔が良すぎだろ

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