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第60話(社長)

駐車場にシバの車があったから まさかと思った 部屋に帰ると本当にシバがいて 俺に抱きついたりと かわいい動きをし、 要約すると風呂に入りに来たらしいが 様子がおかしい、 なんだか、不安定に見える 心配になり、最近の様子を聞いても何にもしていない、と言うことだったから 戻ってくればと提案しても首を振る そして、 「おれが、戻らないで、ちゃんと自分で働いたらどうする?」 と、よくわからない質問をされ、 「どうするってなにが?」 「おれのこと、どう思う?」 「どうって?べつに。安心するけど」 「なんで?嫌じゃねえの?ペットじゃなくなるだろ?」 と、いつの話か ペットなんて最初のころ言っていただけなのに 「いや、今更だろ。家出てった時からもうペットじゃねえだろ?」 「そしたら、おれのこともう、お前の物って言わなくなる?」 と、シバの言葉に思考が止まる なんだそれ、 俺の物って言われんの、嫌なのかよ 刷り込みかも知んねえけど シバは俺の物で、俺のものっ言われんのも嫌がってないと思っていた 他の、誰かのものになりてえってことか? 「シバ、なんだよそれ。俺から離れてどうしてえの?」 「ちゃんと、したい」 「なにそれ、俺と一緒じゃちゃんと出来ねえってこと?」 「お前の会社に居たら、ちゃんと、できない」 「……はぁ、だからお前も仕事辞めたんだもんな?」 俺からそんな離れてえの? 俺から離れて 別の誰かのもの…… あのガキ、つむぎか、 ちゃんと付き合いたいってことかよ そんなに、あいつに本気になったのか? 「……うん、だから、おれ、お前から離れてちゃんとする…」 「わかった、シバ。もういい」 シバが俺から離れていく事なんて考えたくなかった、 なんとなく、 ずっとシバは俺の元にいるものだと思っていた 「匡平、ちゃんとする前に、最後にするから、今日だけ、一緒にいて」 と、シバは俺の首に手を回して 膝に乗り すんすんと匂いを嗅いできた なんだよ、最後って ◇◇ シバに適当に服を着せてやり 外が明るくなるまで他愛のない話をしていた というのも、シバはどこか行くつもりでとりあえず出て来たらしいが 時計を全く見ていなかったようで シバが来たのが深夜の1時過ぎ 店だって殆ど閉まっていた だから朝、どっかでモーニングを食って帰る事にしたらしく それまでは家で時間つぶしをしているのだ 最後だって思うと 寝るのが惜しかった シバが家を出てから こんなゆっくり家で話した事はなかったかもしれない 何となく、すぐえろいことしたり 寝てたりと、 ゆっくり喋ってなかったかもな 「で、なんの仕事するか決めてんの?」 「考えてるよ、色々」 「例えば?」 「パン屋さんとかー、パイロットとかパンダの飼育員さんとかー、パチンコ屋の人とかーパンケーキ屋さんとかー……パソコン関連とか」 「パソコン関連?いいんじゃね、」 「なんで気づくかなー。つむは騙されたのに」 「あきらかに1個違うだろ。いいんじゃん。お前、実はちゃんとパソコン使えるし接客向かねえし」 何気うちの会社のIT系の管理はシバにさせてたしなー その関係で資格とかも色々取らせてたし。 「うん、まあなー」 「面接、ちゃんと髪切ってけよ。どうみたって夜の人間のオーラしか出てねえから、その長さだと」 と、シバの毛先を少し引く シバが会社を辞めてもう3週間ほど いや、正確には有給消化中だからまだうちの社員だけど 家にずっといるのか 元から少し長めのシバの髪は伸びてきていて あきらかにいけないお兄さんみたいな風貌だ パッと見ホストとかそこら辺の 「うっさいなあー、分かってるよ」 「で、どんな会社探してんの?」 「んー、フレックスで朝遅いとこ」 「……お前なあ」 「いや、今更9時5時とかきついって。何年そんな生活してねえと思ってんの」 「まあ、そりゃそうだな」 「うん、」 と、シバは窓に目を向ける 「おれ、そろそろ行こうかな」 「おう、モーニング食って帰るんだよな」 「うん、フレンチトースト食いたいからあの喫茶店行こうかな」 「あー、いいんじゃねえの。あそこちゃんと駐車場あるし」 「うん。つかあの喫茶店うちからめっちゃ近いから車出さなきゃ良かった」 「そういやそうだな、どこ行くつもりだったんだよ」 「いや、こんな近場の旅になると思ってなかったんだよ」 「そっか、玄関まで送る」 と、財布をポケットに入れるシバの後をついて立ち上がる あれ、これ最後か? そう考えると急にすげえ切ないんだけど 下まで行こうかな、いや未練がましいかな 要約すると振られてるんだよな、俺 「気を付けろよ、寝てねえんだし」 「平気だよ、家出る直前まで寝てたし」 「なんだそれ、」 ろくでもねえ生活してんだな 「頑張れよ、職探し」 「うん、じゃあねー。仕事決まったらまた連絡するわー」 ばいばい、とシバは出ていった あれ、なに、 仕事決まったらまた連絡くれんの? なに、 俺から離れるんじゃねえの? 俺、結構、今生の別れぐらいのテンションだったんだけど。 あいつ、昔っからたまにわかんねえ事するよな

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