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第59話(祈織)
つむが出ていって寂しいのはおれの方だった
つむは案外すんなり出ていったし
おれの方が何日も前から寂しかったのに
つむは当日のバイバイする直前までけろっとしていた
なんだよ、おれのこと好きなんだろ
好きじゃないのかよ
おればっかり、さびしいじゃん。
家から出ていってから
つむから連絡も来ないし
おれ色々買ってやるって言ってんのに
なんにもおねだりとかしてこないし…
ただでさえ
仕事も何していいかわかんなくて迷ってたのに
ニートみたいな、
いや、ニートそのものの生活をしていると
どうしたらいいかわかんなくて
昔、この家に一人で来た時のことばっかり思い出してしまう
あの時はどうしてたっけ、
あの時は会社があったし
何かとアイツが家具家電を送ってくるから
ずっとやり取りしてたな、と思い出して笑ってしまう
なんだよ、あいつのペットやめようと思って家出たのに結局あいつのペットのままだったじゃん、おれ
でも、おれもつむに同じことしたいからわかる
そうする事でつむと連絡も取れるし
つむがおれのこと思い出すんだろうなって思う
「………さびしい」
と、ソファのクッションに顔を埋めて
ひとりで呟いた
なんだこれ、
おれ、結局また捨て犬になったってことかな
つむも、おれのこと好きとか言って
置いてでてったじゃん
あっさりでてったじゃん…
誰でもいいから会いたい
つむが出ていって1週間
働いても無いから誰とも会ってない
誰とも喋ってない
みなちゃんも今週はお盆でお休みだったし……
あ、コンビニで箸いりますって喋った
はぁ、と家に居るのが嫌になって
車を走らせた
車を走らせても行く宛てなんて無くて
しかも
着の身着のまま出てきたから
一応免許入ってる財布とキーケースとiQOSだけ持ってきたけど
服装もスウェットで来ちゃったからどっか行くのもなんかあれだし
しかも多分3日くらい風呂入ってない
いや、なんかほぼ寝てて動かなかったし
どこいこ、と何となく走らせてたら
いつの間にかあいつの家の近くに来てしまっていて
とりあえずあいつの家で風呂はいってどっか行こ、と
とりあえず地下のガレージに車を停めて
あいつの部屋の階までエレベーターで上がる
あいつ今居んのかな
仕事かな
つか今何時だろ
と、あいつの家について
一応インターホンを押したけど誰も出てこなかったから
とりあえず合鍵で開けて中に入る
おれの着替えとかあるかな
と、そのまま風呂に直行してシャワーを浴びる
うん、あいつのシャンプーの匂い
おれこれ好き
と、思ったより風呂でゆっくりしてしまって
しっかり全身キレイにして
風呂から出てとりあえず腰にタオルを巻いて
リビングに向かう
うちと間取りは一緒
家具も何となく似てるこの家
あいつのせいで似たような家になったけど
おれの部屋と全然違うしあいつの匂いがする
ウォーターサーバーの水を飲んで
ソファに横になってテレビを付けた
んん、いい匂いする
その時だ
「シバ?」
と、リビングのドアが開いてあいつが入ってきた
「なに、」
「何じゃねえよ。駐車場に車あったからもしかしてとは思ったけど。どうした。急になに?つかなんで裸なんだよ」
と、色々一気に言われたけど
人と話すのが久々過ぎてなんて言えばいいかわかんねえし
「風呂、入りに来た」
「いや、なんで?壊れた?」
「壊れてねえけど」
と、俺の隣に腰を下ろしたから
人間の匂い嗅ぎたい、と首に手を回して
首筋の匂いを嗅ぐ
んん、こいつの匂いすき
「なに、シバ」
と、おれの尻を撫でるから
ちがう、と手をつかんで止める
「なに、やりに来たんじゃねえの?」
「ちっがうし」
「じゃあどうした」
と、おれを座らせるから
おれはソファの上に体育座りをして
ここにきた経緯を話す
「つむがでていってさ、」
「シバ、ちんぽ見えてっけど」
と、おれが真面目に話そうとしてんのに
足の間を覗き込んで来るから
タオルで隠す
「ちょっとどっか行こうと思ったんだけど」
「うん」
「おれ、頭ボサボサでスウェットで出て来たし、」
「いつもだろ」
「いつもはキャップ被るじゃん」
「変わんねえよ」
「それで、3日くらい風呂入ってなかったから」
「汚ねえ」
「うるせ」
「それで?」
「とりあえずここで風呂はいってこうと思って」
「いや、うち銭湯じゃねえけど」
「駐車場あるしちょうどいいなって」
「それで、俺に会いに来たと」
「ちっげえし。おれの話聞いてた?」
「聞いてたよ?ほら、シバ。エッチしよ」
と、俺の事を膝に乗せようとしてくる
「聞いてねえじゃん!」
「要は人肌恋しかったんだろ」
「………」
そうだけど
「なぁ、おれやっぱり間違えたから帰る」
「何を?」
「おれ、お前から離れようと思って仕事辞めたのに、間違えてお前のところきた」
「間違えじゃねえだろ?俺に会いたかったんだよ、あのガキじゃなくて、俺に」
「……ちがう、」
ちがう、
でも、
おれは甘えられる場所がここって分かってたからここに来たんだ
もちろん会いたかったけど
そうじゃなくて、
匡平 の事が好きだからとかじゃなくて
つむ相手に甘えんのは恥ずかしいけど
匡平ならおれのこと、好きなだけ甘やかしてくれるから、
「シバ、仕事辞めて何してんの?」
「………なんも、してない」
「戻ってくれば」
「戻らないし」
「なんで?」
「………なぁ、」
「なに、」
「おれが、戻らないで、ちゃんと自分で働いたらどうする?」
「どうするってなにが?」
「おれのこと、どう思う?」
「どうって?べつに。安心するけど」
「なんで?嫌じゃねえの?ペットじゃなくなるだろ?」
「いや、今更だろ。家出てった時からもうペットじゃねえだろ?」
「そしたら、おれのこともう、お前の物って言わなくなる?」
ペットとか
所有物じゃなくて、
ちゃんとおれのこと人間として見てくれんの?
それで、おれのこと、ちゃんと好きになってくれたりする可能性あんの?
ヤナギさんみたいに対等に扱ってくれんのかな、
「シバ、なんだよそれ。俺から離れてどうしてえの?」
「ちゃんと、したい」
「なにそれ、俺と一緒じゃちゃんと出来ねえってこと?」
「お前の会社に居たら、ちゃんと、できない」
「……はぁ、だからお前も仕事辞めたんだもんな?」
「……うん、だから、おれ、お前から離れてちゃんとする…」
だから、
ちゃんとしたら、おれの事
ちゃんと、志波祈織として見ろよ
「わかった、シバ。もういい」
と、匡平は何にも言わなくなった
わかったのかな、
伝わったのか
おれは人の気持ちとか汲み取るの苦手だから
よくわかんなかった
「匡平、ちゃんとする前に、最後にするから、今日だけ、一緒にいて」
と、匡平の膝の上に乗って
首に手を回し匡平の匂いを嗅いだ
甘えるのは、今日で最後にしよ、
それで、明日からちゃんと仕事決めて
ちゃんとしよ
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