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第58話(つむぎ)
「つむ、つむ、起きて!」
と、揺らされて起きると
祈織さんがおれのことを揺らしていた
『いおり、しゃん、』
「出来たからおきて」
と、一瞬なんの事かわからなかったけど
すぐにカレーの事だと思い出した
だってカレーの匂いしてるし
んんん、と目を擦りながら起き上がり
今何時、と時計を見ると朝の6時
え、祈織さん何時間調理してたの?
「腹減ったね」
『えっと、うん』
いや、寝起きだからそんなに
まだ寝起きでぽやぽやしている頭では
あんまり理解出来なかったけど
どうにか起き上がり
ちょっとおトイレ、と
トイレと洗顔を済ませて食卓につくと
祈織さんは
カレーを並べて
スプーンを持ってスタンバイ完了していた
『わぁ、すごい』
ちゃんとカレーだ
見た目は立派な
上になんか焦げてるよくわかんないの乗ってるけど
「半熟玉子乗せようとしたら焦げた」
『これ、卵?』
「うん」
と、焦げてるよくわかんないのは半熟玉子らしい
「つむ、食べて」
『うん、いただきます!』
と、黒い半熟玉子の乗っていない所をスプーンですくって口に運ぶ
『んん!うまい、カレーになってる、祈織さん』
「なんだそれ、お前おれのこと舐めてるだろ?」
『そ、そんなことないし!』
物理的になら隅から隅まで舐めたいけど、
と、祈織さんもカレーを食べ始める
「うん、まぁまぁかな」
『おいしいよ、祈織さん』
「ほんとうは、あいつが作ったやつの方がうまいんだけどね」
『あいつ?』
「あー、おれの飼い主だったやつ、」
『あ、うん』
「あいつは、おれに色々してくれて、色々教えてくれた。おれの世話して、おれにカレーの作り方教えてくれて」
『そうなんだ、』
「だから、おれもお前に色々してやりたかったけど、おれなんもできなかったね」
『そ、そんな事ないよ!おれ祈織さんと一緒にいれて楽しかったし』
「ふはっ、へんなやつ」
『変じゃないよ!』
祈織さんは
おれの頭をぐしぐしと撫でて笑った
「おれね、基本なんもできないけど…これはできるからお前にしてあげたかったんだ」
『いおりさ、ん…それは、おれがでてくから?』
「うん。でも、おれはつむに出ていって欲しくない」
『え、でも、』
「でも、おれも飼われてたから。つむの気持ちわかるんだ。出ていって1人前になりたいって」
『……うん』
「だから、頑張れ」
『ありがとう、祈織さん』
と、祈織さんは
カレーのお皿を下げて
寝室に行ってしまった
おれは、少しだけ泣いて
祈織さんが作った5リットルくらいのカレーをできるだけ食べて
食べきれなかったから
ジップロックにいれて冷凍しておいた
◇◇
あっという間に
家を出る日になった
引っ越しの荷物をまとめていた
俺の荷物なんて元からそんな無くて
祈織さんに買ってもらった
お箸とお茶碗
あと祈織さんがくれた社長が送ってきた枕とちょっとの洋服しかないから
スーツケース1個くらいの荷物しかなくて
祈織さんはスーツケースをくれて
「ベッドとかかうの?おれ買ってあげようか?」
『え、いや、まだ決めてないけど』
「じゃあお布団どうすんの?」
『えっと、しばらくは…?寝袋とか?』
「ええ、じゃあおれのお布団持ってなよ、お前がここで使ってたやつ」
『え?でも、』
「いいよ、どうせお前くるまで使ってなかったし」
『うん、じゃあ持ってく』
「んん、じゃあまとめようか」
ほら、おねしょシーツと、渡されたから
それはスーツケースの中に入れる
布団カバーどこだっけー、と言いながら
色々棚を開けている
もうこれでいいや、とそのままにする祈織さん
『えっと、じゃあ送ってくれるんだよね?住所』
と、郵送してくれるのかな、と
何か、書くもの、とキョロキョロする
「いいよ、そんなの。お前がもって」
と、祈織さんはスーツケースを起こした
『え、さすがにこんな持ってけない、』
「うん、だからおれも下まで持つって」
と、行ったけど
下までしか持ってくれなかったら
おれはお布団背負って
電車乗るのはさすがに大変なんだけど、と思いながら先を歩く祈織さんについていく
祈織さんはエレベーターに乗って
1階を押すと思ったのに
地下一階を押した
『あれ、』
「なに?」
『なんで地下』
「だって、車で行くでしょ?こんな荷物持って歩けないでしょ」
『えっと、いいの?』
「なんで?」
『だって、わざわざ』
「おれ暇だし。ニートだから」
『えっと、ありがとう』
道案内するね、と
助手席にすわって道案内をしながら
横で運転してくれる
祈織さんの顔をみる
うわぁ、運転する祈織さん
かっこよすぎい
服装スウェットだけど、
適当に帽子被ってるけど
スウェットで
頭ボサボサだから適当にキャップ被ってるんだと思うけど
そんな適当な格好してるから
なんか祈織さん若く見える
めっちゃ高級車運転してるけど
「家電とかは?」
『んん、まだ買ってないけど、洗濯機と冷蔵庫とテレビとかは友達がくれるって』
「へえ、よかったじゃん」
『うん』
「おれもなんか買ってあげるのに」
『え、いいよ、そんなん。悪いし』
「ええ?」
『それに祈織さん、無職だし』
「……そのうち働くし」
『……そうだと思うけど、』
つまんね、と祈織さん言って
iQOSを吸い始めた
祈織さん、仕事の時しか吸ってなかったのに
最近はお家にずっといるからか
よく吸ってる気がする
『それにおれ、祈織さんに買ってもらったお箸とお茶碗あるし』
「お前、かわいいこというね」
『そ、そうかな』
祈織さんが笑うから
タバコの煙がふわっとこちらまで流れてきた
「あ、ごめん。タバコくさいね」
『ううん、iQOSだからまぁ平気』
「そっか、」
と、祈織さんは少し窓をあける
『祈織さん昔からタバコ吸ってんの?』
「ううん、そんな。20歳はちゃんと過ぎてからだし」
『そっか、おれも仕事始めたら吸うかな?』
「どーだろうね。吸わない方がいいよ、癖になるし」
『へえ、なんで吸い始めたの?』
「ええ、」
『え?なに、聞いちゃダメな感じ?』
「んんん、だめって訳じゃないけどさ」
『うん、』
「おれ、指しゃぶりクセ付いちゃってさ。だから人前ですんの恥ずかしいからタバコにした」
『へえ、かわいい』
「……内緒だよ、あとかわいいとかいわないで」
『……禁煙したら』
「無理だって」
『祈織さんが指しゃぶりしてんの見たかったのに』
「変態だな、おまえ」
祈織さんが
かわいすぎんのがいけないんだとおもうけどな
『あ、そこの道曲がって大通り10分くらい行ったとこ』
「へえ、案外近いね」
『うん、結局近かった』
と、車で来たらほんとうに近い距離だった
『あれ、おれなんか寂しくなってきた』
「……今更かよ」
『だって、なんか実感しちゃって』
「おれのほうが…ずっと寂しかったのに。つむってバカだね」
と、祈織さんに言われて
目の前が滲んだ
なんだよそれ、
そんなこと、言わないでよ
と、涙が滲んでるのが見えないように
さりげなく窓の外を見た
祈織さんのおうち出ていったら
おれ、どうやって祈織さんに会えばいいんだろ
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