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1 俺の恋人
「結婚するならさ、君みたいな子がいいよね」
「なに言ってんの? ふふ……酔ってる?」
目の前でご機嫌に酒を飲んでるのは俺の恋人。
歳もずっと上だし、何より俺と同じ男だ。誰がどう見たって恋人同士には見えない。
でも正真正銘、俺の恋人──
どうやったって俺たちが結婚なんてできっこないのはわかってるけど、でもこうやって俺を結婚相手に思ってもらえるのは物凄く嬉しかった。
「でもさ、どうしてこんな高そうな店? 何かあったの? お祝い?」
優吾 さんとデートで食事するのは大体ファミレスか居酒屋。優吾さんの仕事が早く終わった時に会いたいと連絡が入るのが殆どだ。部活動はしてなかったけど学校の後バイトをやってた俺は、こういった急な呼び出しでちょいちょい当日欠勤するもんだからとうとうこの前クビになってしまった。
でもいいんだ……
優吾さんは大人だから、デートの時は絶対に俺には支払わせないから。頑張って金貯めてるけど、優吾さんと会ってる時に俺が金を払うことなんか一度も無かった。
またのんびりバイト先を探せばいい。バイトなんかより、何よりも優吾さんと会う事の方が俺にとっては優先だった。
今いるのはホテルの高級そうなレストラン。凄い場違いな気がしてさっきから正直落ち着かなかった。何でこんなところで食事してんだ?
俺と優吾さんが出会ったのは約半年前だし、一周年記念とかじゃないよね? 俺も優吾さんも誕生日でもないし。
突然こんな場所で食事なんて、俺には何も心当たりはなかった。
「急に呼び出したと思ったら買い物したり、こんなホテルのレストランで食事……俺こういうの慣れてないから緊張するじゃん」
学校帰りにいつものように呼び出され、車で向かった先はデパートだった。優吾さんがよく買うというブランドのショップで、そこで俺に似合う服があると言いながら、上から下まで一式買い揃えてくれたんだ。そこですぐに着替えさせられ、そのままこのホテルに来たってわけ。確かに汚ねえ学校の制服じゃ不釣り合いかもしれないけど……
「公敬 君は素直だよね? そういうところ俺、大好きだよ。君くらいの歳の子ってさ、強がったり見栄張ったりしがちじゃん? 決まって生意気なのに、公敬君は全然そんなんじゃないよね。可愛いよ」
俺だって本当は強がりだし生意気だよ? でも好きな人の前だと素直になれるんだと思う。可愛いなんて、友達とかに言われたら「ふざけんな」って絶対ムカつくし。優吾さんは大人だから、俺の憧れだから、だから素直になれるんだと思う。素直になれるから、甘えられる。恥ずかしいけど、甘えるのも大好きなんだ。
早く二人っきりになりたいな。
綺麗な格好をして、こういう店で恋人と食事。それだけで、なんだか自分が大人になった気がした。時折優吾さんにジッと見つめられ、小さな声で「好きだよ……」なんて囁かれてみろ。どんどんその気になってきちゃって、酒も飲んでないのに体が熱くなってくる。
目の前のこのいい男に相応しいのは自分だけだと錯覚する。
俺にとって目の前のこの人が全てだった。愛されてる自信もあった。
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