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128 淡雪のように

 きっと優吾さんと再会した時点で、俺は彼のことを許していたのだと思う。  小さく心の奥にこびりついている甘えのような感情が、こうやって今も優吾さんを少しだけ困らせている。  今までのことに比べたら、これくらいなんてことはない。  優吾さんだってちょっとは俺に振り回されて困ればいいんだ。  人生の後半戦──  今更何かにときめいたり、夢中になることもきっとない。  それでも俺のそばには初恋だった大切な彼がいる。  振り返ると信じられないくらい今の自分は心穏やかで充実していた。  優吾さんは今も変わらず橋本さんの家に居候をしている。俺の家で一緒に住むのはまだ先でもいいだろう。    だってまだ「恋人」と認めたわけではないのだから……  手を震わせ緊張しながら改めて告白をしてくれたあの日から、俺と優吾さんの関係は変わっていない。 「なあ、いつになったら優吾引き取ってくれるんだよ」 「え? 考えてないよそんなの」 「嘘だろ? 公敬君おかしいよ、さっさと前みたいに同棲始めればいいのに……毎晩あいつの愚痴聞く俺の身にもなってくれよ」 「愚痴ってるの? ザマアミロだな」  たまに会う橋本さんとも相変わらずの関係だ。最近じゃ、優吾さんを押し付けたいのが見え見えで、頻繁に俺のことを飲みに誘う。俺からしてみたら橋本さんの奢りも増えてありがたいことだった。それに、ああは言っても橋本さんだって優吾さんのことを迷惑に思っているわけじゃないのがわかるから……  以前と少し変わったこと──  優吾さんは嘘みたいに俺に優しい。俺におべっか使って嘘くさいと咎めたら「公敬君が好きで好きでしょうがないんだ。そうせずにはいられないんだよ」と真面目な顔をして言われてしまい、恥ずかしくて死にそうになった。  何度も何度もデートに誘われ、失った時間を埋めるかのように俺たちは一緒の時間を多く過ごした。  いい歳をした中年男が、これまた同じ中年男に「可愛い」と何度も言い、大事大事に接してくれる。    こんなに擽ったいことはない。    あの時の辛い気持ちは、淡雪のようにとっくにふわりと消え去っている。  でも優吾さんからの求愛を楽しみながら、もう少し時を過ごすのも悪くはないだろう。優吾さんだってきっと俺の気持ちはわかってる。  付かず離れずの距離感で、それでもお互い大切に思いながら……    残りの人生は二人で穏やかに過ごして行ければいいな、と、今日もまた彼からの「愛」を受けながら俺はわがままに甘えてみせる。 end

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