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魔王様の戸惑いと決意。

★  誰もが恐れる凶悪な悪魔ルーファスには悩みがある――というか、悩みができてしまったと言った方がいいのかもしれない。  彼は近頃、同じ寝室で眠っている万里(ばんり)が擦り寄ってくるようになった。それが辛い。  なぜなら、ルーファスは万里を一目見た時からその可愛らしさに心奪われていたからだ。  初めは好いている相手と仲良くなることは純粋に嬉しかった。――とはいえ、こうも無防備に擦り寄ってこられては男としておかしな反応が身体に表れるわけで……。  ルーファスは万里を自分のものにしたい衝動に駆られるのを必死に踏ん張らねばならないのだ。 「万里、お前はたった今から隣の部屋で眠れ」  そもそもルーファスが万里と共に寝室で過ごそうと思ったのは、もちろん彼自身が可愛いものを傍らに置きたいという願望があったものの、それ以上に(しもべ)たちが人間の万里を見てどのような行動に出るのかが皆無だったからだ。  血に飢えた悪魔たちは万里を襲うかもしれない。その恐れがあった。  だが、僕たちは存外理性を持ち、有り得ないほどの愛情もあることを知った。彼らはルーちゃん畑という、おかしな畑を作り、野菜を育てるほどなのだ。ならばもう、万里を無理に自分の傍らで眠らせる理由はない。 「なんで?」  一人で眠れと告げるルーファスの言葉を聞いた万里の大きな目が揺れる。  まさかあの阿呆王子と自分が同じ行動を取りそうになっているとは言えず、ルーファスが口ごもっていると、万里が口を開いた。 「ぼくが嫌いになった?」  万里の脳裏に甦るのは、去っていく母親の後ろ姿と父親がいなくなったその日の朝のことだ。  六畳二間のがらんとした部屋にひとり、取り残された自分。  幼い頃の記憶――それが彼の脳裏に過ぎる。 「違う」 「じゃあ、どうして?」  ルーファスは首を振るも、なぜかと尋ねられて万里に嫌われる最大の理由である、自分が魔王だということを打ち明けることができず、やはり口ごもる。  もともと、自分は悪魔だ。もし、古の言い伝えが本当だとすれば、万里はやはり救世主ということになる。どう足掻いたところで自分とは相容れない存在なのだ。  しかし、これは今、言うべきことだ。  ルーファスは静かに、鉛のように重い唇を開いた。 「万里、俺は悪魔の王だ。この世界を混沌へと変えようとしている邪悪な存在だ」  それはルーファスからの突然の告白だった。  万里は打ち明けられた真実の意味がわからない。 「えっ?」  そんな筈はない。  たしかに、ルーファスはともかくとして仲間は皆、悪魔の容姿をしている。しかし、彼らはとても温厚で、おぞましい存在には到底思えない。 「でも、でもルーファスもみんなも優しいもん!!」  万里は首を振り、否定すると、ルーファスの手が伸びてきた。 「それはお前を欲していたからだとしたらどうする?」  そう言うと、彼は万里の細い両の手を片方の手だけでまとめ上げた。覆い被さるルーファスの空いている片方の手が下着をくぐり抜け、万里の柔肌をなぞる。 「えっ? あ、やだっ!!」  それは数日前、この世界にやって来たばかりの自分を何の前触れもなく組み敷いてきた王子の姿がルーファスと重なった。  あの時の恐怖が蘇る。  万里の全身から血の気が失せ、小刻みに震える。 「お前は救世主。そして俺は魔王。お前が元いた世界に戻るには俺を殺すしかない」 「……できない」  万里が首を振れば、ルーファスの指先が身体をなぞった。  万里の全身に震えが走る。 「……ほう? ならばこのまま抱かれるか?」  首筋に薄い唇が触れた。 「い、いや……やだ……」 「ならばさっさと出て行け!!」  これが最後の忠告だと言うように、薄い唇から万里を拒絶する言葉が放たれる。 「っひ」  ルーファスが万里から離れると、すっかり恐怖に捕らわれてしまった万里は彼の下から転がるようにして逃げ出した。 (これでいい。これで、万里は自分を殺しに来るだろう。その時は……) 「甘んじて受けよう」  それが、ルーファスが導き出した答えだった。  ★魔王様の戸惑いと決意・完★

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