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「あのイケメンか。なんだ風邪か?」
森保さんに問い返され 首を傾げる。
「昨日 雨にかなり濡れたみたいで。
地域の飲食店主催のイベントだったんです。
朝から調子悪そうだったんですけど。」
プライベートで新とも何回か食べに来ていて
ルームメイトでバーのオーナーだって紹介してある。
「で。お粥。ってお前 そんだけ味覚鋭いのに
粥も作れねえのか。本当に不思議なヤツだな。
桜井。パパッと教えてやれ。」
隣で苦笑いを浮かべていた桜井さんは
わかりました。と頷いて 必要な物から
手順まで 事細かく丁寧に教えてくれた。
出来上がった物を食わせて貰ったけど
これがまた見事で。
シンプルな卵粥なのに フワッと出汁の
いい香りがして めちゃくちゃ旨かった。
「ありがとうございます。でも。
俺 こんなに上手く作れるかな。。」
米粒一つ残さず食い終わり 首を捻ると
森保さんと桜井さんは顔を見合わせ くすっと笑う。
「風邪引いてたら 味も匂いもしねえよ。
腹に何か入れてから薬飲ませりゃ効くだろう。
ああ。それにこれ飲ませてやれ。」
そう言って 森保さんは小瓶を渡してくれた。
「柚の甘露煮だ。お湯に溶かしてな。
生姜がたっぷり入っているから体も温まるぞ。」
うわ。
風邪じゃなくても飲みたい。
「ありがとうございます。じゃあまた次の予定
連絡入れますんで。追加あったら言って下さい。」
「おう。元気になったらまた連れてこい。
あのイケメン兄ちゃんの好きな手羽元
出してやるから。」
新と一緒に来た時 コース途中で出てきた
手羽元の煮物に新が感動してた事を思い出す。
炭火で炙って香りを出してから煮つけて。
コラーゲンプルプル。
美味かったよなー。
それにしてもホント 何でもちゃんと
覚えてるんだな。
やっぱ一流の料理人は凄い。
「わかりました。ありがとうございます。」
おう。と手を上げた森保さんと他の皆さんに
会釈して 店を後にした。
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