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カプッと齧り付くと中からチーズがトローっと。 塩気のあるハムとキャベツの千切りが ちょっとシナッとなっててこれがまた旨い。 「すげぇ旨いな。これ。カリサクトロの三拍子。 買ったのか。ホットサンドメーカー。」 長い取っ手がついた蓋つきフライパンみたいなヤツ。 前に一緒に買い物に行った時 新が珍しく食いついてたから覚えてた。 「うん。たまにしか作らないだろうしって 買うの躊躇してたんだけど キャンプでも使えるし それにちょっと思い出があってね・・。」 思い出? 無言で先を促すと 新は淹れ直したコーヒーを 出してくれ 自分のカップに口をつけた。 「若い頃。他人に対して言動が かなり冷たかったみたいで。 自分ではそんなつもりは無かったんだけど 一度茂さんに叱られたんだ。」 「茂さんに?」 コクンと頷く。 「そんな風に相手を思いやらずに突き放すような 事ばかり言う奴はいつか自分もそう言われるって。 言葉を口にする時は相手から同じように言われたら どう思うか 一度考えてから話しなさいってね。 人から愛情を求められるのがすごく嫌で。 愛してるかどうかを確かめられるのも ウンザリだったし 実際愛してなかったから余計に。 どうせ まやかしだし ずっと続く愛情なんて その頃はある筈が無いと思ってたからね。 それが今は続かないのかって不安になるなんて 自分でも思ってなかったんだけど。」 くすっと笑い 俺にウィンクを寄越す。 まあ。そうだよな。 それも育った環境のせい。 でも。今の新は違う。 こっちが恥ずかしくなるぐらい 愛情表現豊かで。 いつも俺を安心させようとしてくれてるんだよな。 「その時ね。茂さんがホットサンド 食べさせてくれたの。ちょっと待ってなさい!って 用意して 焼き方まで見せてくれて。 パンとパンの間に具材を入れて ぎゅーーっと押しつけて焼く。 出来上がったホットサンドを俺の前に出して こうやって絶対離れない確固たる間柄って あるものよ。って。 だからそういう人と巡り合う日までに そんな風に思ってしまう自分を一度止めてみたら? って言ってくれた。でも。今考えると 結構その場凌ぎだったんだけど。」 新は思い出したようにくすくす笑う。

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