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はじまりの朝はチェリーとピーチ

それは、朝 何となく入ったコンビニで見つけた、ただのフルーツキャンディ。 恋に効く!なんて、最近人気のアイドルがCMでやってたなぁ、ってふと思って。 そう言えば女子の間で流行ってるなぁ、なんてことも思い出して。 ついでに好きなやつの顔までぽん、と浮かんで。 こんなただのキャンディで上手くいくわけないじゃん、なんて鼻で笑いながら、でも一応買ってみようかな…、って自分に言い訳してレジに並んだ俺は、何て言うか…うん。 バカだな。 望みはないのを分かっていて捨てられない恋心は、今ではもう色々なものがぐちゃぐちゃに絡まってしまっている。 幼なじみに恋をするのは、マンガの中では割と定石。けどまぁ、現実でもないわけじゃない。 …俺みたいに。 でも。 俺が好きな相手は、同性で。彼女がいて。 俺との未来は、やつの中にはない。 分かってるけど。どうしても、捨てられない。 「…やだなぁ…」 こんな惨めなのも、諦めが悪い自分も。 「あれぇ~、マッキーそれ買ったのぉ?」 ため息がこぼれそうになった時、明るい声が聞こえた。 隣の席の樋口さん。めちゃめちゃギャルだけど怖くない。 俺、ギャルって怖いからほんと苦手なんだよ…。 樋口さんの視線は、俺の手にあるキャンディの袋。 「あ、これ? みおりんのCM思い出して、つい」 「マッキーみおりん好きなのぉ?」 「そういうわけじゃないんだけど…」 「分かった! 好きな子いるとか!」 「や、普通にどんな味かな、って」 「えぇ~、つまんなぁい」 樋口さんは良くも悪くも素直だよな。 ちなみにマッキーと呼ばれている俺、牧瀬 七織(まきせ ななお)です。よろしく。 「牧瀬 好きな子いんの?」 「違うって。これ流行ってんじゃん? どんな味か普通に気になって」 近くにいたクラスメートが話に入ってくる。 「俺も気になってるけど、もらうなら深田さんからがいいな!」 「何でもらう前提?」 「それぇ、好きな人にあげると恋が成就するって言われてんの」 樋口さんが教えてくれる。 なるほど、それで恋に効く!ってCMしてるんだ。あれ? でもCMが先だから…。 「みおりんがさぁ、恋に効くー!ってやってるからぁ、それ渡して告白するってのが流行ってんだよねぇ~」 「あ、そうなんだ?」 「マッキー、pritterやってる~? 上手くいったー!って投稿 結構多いからぁ」 そう言いながら、樋口さんがpritterの画面を見せてくれた。

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