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第2話

「マッキー、キャンディごときで、って顔してる~」 バレてた。 樋口さんが明るくキャハハと笑う。 「まーでも実際、キャンディごときで、って思うよな」 「思うけどぉ、ミホもそれで高谷くんと付き合うことになったかんねぇ」 「え、マジで? 最近 付き合い出したと思ったら…」 「そーだよぉ。あとセンパイとかも話聞くしねー」 「へぇ~」 2人の声を聞きながら、俺がこれを幼馴染み――圭典(けいすけ)に渡したところで、上手くは行かないんだよな、なんてぼんやり思う。 だって圭典は女の子が好きだから。 俺は、ただの幼馴染みで、男で、だから…。 「七織、おはよう」 「!」 好きな声。 圭典の声に胸が跳ねる。 けど俺はあえてゆっくり顔を上げた。 「おはよ、圭典」 その隣にいる彼女を見るのは、俺にはまだすごく覚悟がいる。 見るぞ!って気合いを入れないと、本当に難しい。 泣きそうになってしまうから。 「…っ、佐田さんも、おはよ」 「うん。おはよう、牧瀬くん」 圭典の彼女の佐田さんは、可愛い。 それはそれは可愛い。アイドル?って思うくらいの可愛さで、男子には大人気。 で、その彼氏の圭典も、そりゃカッコいい。美男美女でお似合いだよね、なんてよく言われてるのを耳にする。 悔しいけど、The・平凡な俺は太刀打ちすらできないのが現実。 どっちに太刀打ちすんだ、って話だけど。 「ヤバイねー! マナミちゃん今日もめっちゃかわいー!」 「えっ、やだそんな…っ。でもありがと、樋口さん」 はにかむように笑う佐田さんは本当に可愛い。 でも俺は、それを愛おしそうに見つめる圭典を見たくなくて、そっと目を伏せた。 胸がしくしく痛むのを、そっと撫でる。痛みはとれない。 「何の話してたの?」 「あ、マッキーがさぁ、みおりんのキャンディ買っててぇ。好きな子いんの!? って思ったら違ってたぁ」 「あ、あのキャンディおいしいよね! 私も好き!」 「マナミちゃんたちはもう必要ないじゃ~ん!」 「え、この前マナミにもらったし」 「うわ、自慢すんな。爆ぜろ」 胸、が…痛い。 嫌だな、こんな自分も、この空気も。 「あれ、七織?」 そっと席を立った俺にも圭典が声をかける。 「…先生来る前に、トイレ行っとく」 「あ、もうそんな時間か。やば、辞書出しとかなきゃ」 「あ、私も」 時計を見て、みんなパタパタ動いていく。 苦しくて、俺はそっと息をついた。

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