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中編
オレにとっての唯一の救いは、次の日が土曜で、学校が無かったことだろう。
もし登校日だったら、昨日の今日でオレは総司にどんな顔して会えばいいのかわからない。
…総司はオレが本気で付き合ってたと思ってない。だからいつも通り普通に接してくるだろうからから、オレもそれにならえばいいのだろうか。
(いや、そんなん無理だろう…)
だってオレはもう、総司のことが好きなんだ。
付き合ってるのがなかったにしても、それはなかったことにはできないし、そんなに急に消せるものでもない。
かといって、このまま月曜日を迎えても、合わせる顔がないのはおんなじままだ。
悶々としたまま一睡もできずに土曜を迎え、足りない頭でどうしようか考えてみたものの、いつの間にか眠ってしまい、起きた時にはもう日曜の昼間だった。
もちろんその間、総司からの連絡はない。
明日になれば、どうやっても顔をあわせることになるのに。
このままではいつも通りの時間に総司と駅で落ち合って、2人きりで登校することになってしまう。
(…やっぱり、無理だ)
意を決してスマホを手にとりベッドに腰掛けて、無料通話アプリから総司のところを開く。
オレからばかり始められた会話。
それは今日で最後にしようと思いながら、総司の名前をタップした。
♪♪♪~
♪♪♪~
コールの回数が積み重なっていくうちに、総司はもうオレと話したくないかもと今さらながらに思ったが、切るに切れずに待っていると…
『…もしもし』
総司は電話に出てくれた。
「総司…?」
『うん』
「もうオレの電話…出てくれんかと思った」
安堵の息を漏らしながらそう言うと、ほんの一瞬だけ間が空いた。
『……なんで?』
不思議そうにする総司。ずっと悶々としていたオレと違って、総司にとっては金曜日の会話は何も思うところが無かったんだろう。
…そりゃそうか。恋人の設定をなくしただけで、総司にとってオレは今も昔も、ただの友だちなのだから。
スマホを握る手にグッと力が込もる。
「いや‥あの、今、電話大丈夫?」
『うん』
「そっか…あのさ、この間の金曜のことなんだけど…付き合ってる設定っての。…ごめん。オレ、総司がそんな風に思ってるって、知らなくて」
『…別に。そんな謝ることでもないだろ』
「でも総司にああ言われて、色々振り返ってたら…なんかいっつもオレが総司を付き合わせてたんだなって、思って…」
『……』
「だから、どうしても謝りたくって……ごめん…っ」
情けなくて思わず涙が溢れそうになり、最後の言葉は少し声が震えてしまう。
『……』
しかし総司から返事はなくて、俯いて涙を堪えていると
『…オレは別に付き合わされたとは思ってない』
と、間をあけてから総司が呟いたので、ホロリと涙が溢れた。
「…そっか…よかった…」
今度の声は完全に涙に濡れていた。
総司もきっとオレが泣いてることに気づいただろうが、オレは取り繕うことも涙を止めることもしなかった。
「…総司にとっては変な設定だったかもだけど、オレは…ごめん。設定と思ってなくて、総司と本気で付き合ってる気でいてた」
『…』
総司は何も言わなかったが、スマホから伝わる微かな空気の振動がその戸惑いを感じさせた。
「だから明日から急に、普通に友だちとか…無理っていうか、自信なくて…とりあえず、しばらく一緒に学校行くのとかはなしにして欲しい。…ちゃんと普通の距離感とれるよう頑張るからさ」
…本当はそんな言葉ではなく、総司が好きだって伝えたかった。
本気で付き合って欲しいって言いたかった。
総司は少しでもオレを好きでいてくれたのか聞きたかった。
だけどそれを言ったら、総司はまたオレの言葉に流されて返事をしまうかもしれない。
…そう思うと、言えなかった。
断られるのも拒否されるのも仕方がないと思えるけど、それだけはもうさせたくなかった。
「…言いたいのはそんだけ。今までごめんな。…じゃあな」
総司から返事はなかったが、ちゃん伝えたかったことは言葉にできたので、少しだけ達成感を感じながらスマホを耳から話して電話を切ろうとすると、
『ちょっと待て、お前何切ろうとしてんだよ!』
総司が突然大声をあげた。
「…え?」
『オレ何も返事してないのに何で切んの!』
「え?や、ごめん…総司はもうオレと話したいことはないのかなぁと思って…」
『返事考えてただけだし!てか今どこにいるん?家?』
「そう、だけど…」
急に捲し立てるような総司の言葉に、いつの間にか涙はどこかへ引っ込んだ。
オレの返事にまた無言になった総司は、電話を切らずに、電話越しからはガサガサとした大きな動作音や荒い息づかいが聞こえてきた。
(え、これってもしかして…)
「…総司、こっち来ようとしてる?」
半信半疑でそう聞くと、『そうだけどっ』と当たり前のように返ってくる。
「え、なんで!オレ今総司に会わす顔ないし!そうだ、オレ今から買い物に行かなきゃで…」
本当は買い物なんてなくて、総司に会わせる顔がないのと…総司に何か言われるのが怖いからなんだけど。
総司の来る前にどこかへ逃げようとベッドから立ち上がると、
『オレは会いたい!ちゃんと会って話したい!いいから黙ってそこにいろ!』
そんな叫ぶような声が電話越しに聞こえて、電話も切れないままどうにも動けないでいると、10分もしないうちにピンポーンと家のチャイムが鳴った。
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