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後編 (完)
「……」
「ゴホッゴホッ…はぁ…」
オレの家に辿り着いた総司は漸く電話を切ると、戸惑っているオレをよそに、「お前の部屋行くぞ」と呟いて勝手に靴を脱ぎ捨てて家に上がると、当たり前のようにオレの部屋へと向かった。
「…なんで…」
なんでわざわざ、総司はオレのところへ来たんだろう。
言いたいことがあれば電話やメールで充分なのに…ていうかそっとしといてくれればいいのに。
そんな風に思っていると、呼吸を整えた総司が顔を上げる。その瞳は少し走ってむせたせいかか、潤んでるように見えた。
総司に続いて自分の部屋に入ると、総司は出口を塞ぐようにバンッと勢いよく扉を閉めた。
「…なんでって…今話さなかったら、お前、もうオレと話す気ないだろ?」
責めるような総司の口調に、オレは反射的に否定する。
「そんなこと…話しかけられたらちゃんと返すし」
「ほらな。オレが話しかけなきゃ話す気ないってことだ」
「……挨拶くらいはする気でいたし」と呟くと、すかさず「それは話す気あるっていわないから」と切り捨てられた。
「いや…でもオレ的にはフラれたようなもんだし、そうなるだろ…」
総司はやっぱり、友だちとして今まで通り接しろとでも言うつもりなのだろうか。
困惑しているオレを他所に、総司は「はー…っ」と大きなため息をついてからしっかりオレを見据えた。
「…フラれたってなに?そもそもフってねーし。つーかお前、本当に…本当に今までオレと付き合ってると思ってたん?」
「……」
嘘だろう?と問いかけるような表情の総司にまた溢れ出しそうになり、それを悟られぬようにそっと、視線をうつむける。
「…そうだよ」
そう答えると、総司は はぁっとまた溜息をついて、扉についたままの手をぎゅっと握りしめた。
「…そんなん、知らなかったし。オレだって最初はマジで付き合う気なのかって思った時もあったさ。でも付き合うつってもキスも何もねーし、“デート”も名前ばっかで遊びの内容とか雰囲気とか前と何も変わんねーし…お前が好きだの何だの言う時だって、冗談半分なのばっかだったろ?だからオレは あー冗談だったのか って思ったんだよ」
総司はずっと、そんな風に思ってたのか。
(お互い、言葉が足りなかったんだな…)
言葉が足りなかった部分を、オレは都合のいいように考えて、総司はオレとは違うように受け取った。
だからこんな風にすれ違ってしまったのだろう。
総司が1歩近づいて、総司の影がオレの顔を覆う程そばに来た。
「お前…オレのこと好きなの?」
瞳を揺らしながら問いかける総司に、思わず苦笑いが溢れる。
「今更そんなん聞いてどうすんだよ。…オレはもうそういうの、お前には言いたくない」
そんなオレの言葉に総司は何か言いた気な顔をしたが、オレはそれだけは譲れなかった。
「…お前は、オレの言葉に流されやすいんだよ。オレが断りづらい雰囲気出しちゃってんのか知らんけど…だからもうそういうのは言いたくない」
オレの言葉に、総司は
「はぁ?何それ…全然意味分かんないんどけど。オレがいつお前に流されたんだよ…」
と、心底理解できないというように、眉を寄せた。
そんな総司に、思わず自分の手に握ったままだったスマホを見やる。…あの独りよがりな履歴が残ったスマホを。
「付き合うってなったのだってそうだろ…オレが総司に付き合おうって言ったからだろ?
メールも電話も…さっき見返してたら、オレがしたから総司が返してくれるのばっかだったし…」
ぎゅっとスマホを握りしめると、その手を上からガシッと掴まれた。
「ちょっと待て…何でそれが流されてるってなんの?」
「だから、どれもこれも、全部オレが言い出したからじゃん!オレが言い出さなきゃ、総司からはそんなことしようと思わなかっただろ!付き合おうとか、メールしようとか、だから…っ」
オレのその言葉に、総司の俺の手を握る力がぐっと強くなった。
「…なんでそうなんだよ。何でそれが流されてるになるだよ!流されてなんかねぇよ!オレはお前と電話したいから出て、メールしたいからしてんだよ!なんでそんな捻くれた考え方すんのかわかんねーけど、流されてんなら今ここにいねーから!
…そもそもなぁ、お前何勘違いしてんのか知らんけど、付き合おうって言い出したのは、オレだから!」
「………は…?」
予期せぬ言葉に固まっていると、総司はどんどん言葉を続けていく。
「オレはずっと、お前のこと好きだったんだよ。…お前はオレのこと何とも思って無さそうだったけど。
だからオレらも付き合うかって…ノリみたいな感じで言ったんだよ。…もしフラれたとしても冗談だって流せるように。
けど、結局そのせいで変なネタみたいな感じになって…しっかりフってすら貰えなくてすげぇ後悔してたし、付き合えてねーのに付き合ってる風なのがいい加減辛くて、止めたかった」
総司が少しだけオレより高い背を僅かにかがめて、オレの顔を覗き込む。その真っ直ぐな瞳から、目が離せない。
「…なぁ。お前は普通に友だちなんか無理って言ってたけど、オレだってそんなんヤダし。オレはお前とちゃんと付き合いたい。
オレのこと好きか…?そうじゃないならちゃんとフッってくれ」
総司のオレを見つめる瞳が、自信無さ気にゆらゆらと揺れている。
…オレが総司をフるなんて、あるわけないのに。
その切なげな表情に胸がきゅんとなり、何も言えずに魅入っていると、いつの間にか今にも泣き出しそうな程に歪んでしまったので、慌ててオレの右手を掴んだままの総司の手に、そっと左手を添えた。
「オレも、総司のこと好きだ。確かに付き合ったのは勢いだったかもだけど…今まで言ってた“好き”も、全部本気だから。だからオレも総司と付き合いたい」
そう言うと
「…うん。わかった。オレも好き。超嬉しー」
くしゃっと泣き出しそうなまま、総司が笑った。
あまりに愛おしいその笑顔にオレもつられて笑顔になると、ギュッと強く抱きしめられる。
(…付き合うってこういうことなのか…)
だったら今までの総司との関係は、確かに付き合ってるなんていえないものだった。
だって一緒にいるだけで、こんなに好きや幸せが溢れるなんて、オレは知らなかった。
総司がこんなに甘い顔するだなんて、知らなかった。
たどたどしく総司を抱きしめ返すと、肩におでこをすりすりと寄せられて、胸の奥がとてつもなく満たされるのを感じた。
そんなこんなで月曜日を迎え、いつもの時間に駅で総司と落ち合って学校へと向かう。
並んで教室に入ると、仲のいい友だちに「相変わらずラブラブだね~」と冷やかされたので、総司の肩を組んで
「当たり前だろ~!オレたち付き合ってますから」と返してやった。
みんなが「知ってるし!」と笑ったから、総司と目を合わせて何も知らない癖にと2人で笑った。
終 2019.10
「なぁ、今度の土曜暇?」
「暇だけど」
「じゃオレんち来ない?誰もいないから」
「え、うん…え?」
(それってもしや、そういうお誘いか…?!)
明らかにキョドってしまったオレに、総司はふっと笑うと
「テンパりすぎ。顔真っ赤だし。超可愛い」
そう言って、オレの左頬に手を添えると、チュッと唇の右端に軽く触れるだけの口づけを落とした。
「おまっ…人いないからって外でこういうの止めろって!ていうか、最近ほんと手ぇ出すの早くない?!」
そう。総司あの日からずっとこんな調子で、隙あらばチュッチュッしてくるのだ。
…一応気を使ってはくれてるのか、ちゃんと人目のないところでだけだけど。
「えー。だって今まで付き合ってるつもりでずっとあんなんだったんだろ?お前のペースに合わせてたらオレじじいになっても手すら繋げねーよ」
ケラケラと笑いながら今度はオレの右手をガシッと、逃げられないような強い力で恋人繋ぎをしてきた。
「いや…流石に手くらいは…繋ぐし」
そう言ってやんわり握り返すと、「まーた赤くなってる」と言って、総司が歌うように笑った。
あぁ、今日も好きが溢れている。
(片思い中はチキンなくせに両思いとわかった途端押せ押せ)×(超絶奥手)
「で、土曜はくるってことでいいよな?」
「え?」
「はい決定ー!あー超待ち遠しいなー」
「え?」
流されてるのはいったいどっちだ。
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