23 / 24

第23話 執事失格

躯を清めて着替えてモーニングコートを羽織ると、秀一郎と共に墓地に向かった。早朝の墓地には、誰もいなかった。 「本来なら緒方家と西川家に花を手向けるんですが、秀一郎さまが相手でしたので、両方とも西川家に供えましょう」 「わかった」 秀一郎は西川家の墓標の前にしゃがみこむと、白薔薇の花束を手向けた。 西川家の墓標は、緒方家のものの隣にある。緒方家のよりひとまわりちいさいそこには、父も母も眠っている。 秀一郎が立ち上がり、数歩後ろに下がる。朔哉が進み、墓標の前に膝をついた。白薔薇を手向ける。 「ここまでお守りくださりありがとうございました。儀式は滞りなく……う……」 崩れ落ち、墓碑に手をつく。決まり切った文句を言おうとして言葉に詰まった。 「……ゆ、許して……父さん。僕を、僕を許してください……」 『決して心は盗まれるな』 父を喪っても、教えは鋭く刺さったままだ。 そう思っていたのに。気づいてしまった。 『おまえの心は暁宏さまのものだ』 秀一郎に抱かれて、やっとわかった。暁宏への気持ちは恋なんかではなかった。 父が朔哉に施した呪縛だった。何もわからずに二十一年生きてきた。 「僕の心は暁宏さまに捧げられない……僕は、執事失格です」 反対の手で口を覆った。嗚咽が止まらない。 「朔哉くん!」 後ろからきつく抱きしめられた。 朔哉の強張っていた躯から力が抜けていく。しかし朔哉は振り向かなかった。一夜を共にした相手だけど、泣き顔を彼に見せたくない。

ともだちにシェアしよう!