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第23話 執事失格
躯を清めて着替えてモーニングコートを羽織ると、秀一郎と共に墓地に向かった。早朝の墓地には、誰もいなかった。
「本来なら緒方家と西川家に花を手向けるんですが、秀一郎さまが相手でしたので、両方とも西川家に供えましょう」
「わかった」
秀一郎は西川家の墓標の前にしゃがみこむと、白薔薇の花束を手向けた。
西川家の墓標は、緒方家のものの隣にある。緒方家のよりひとまわりちいさいそこには、父も母も眠っている。
秀一郎が立ち上がり、数歩後ろに下がる。朔哉が進み、墓標の前に膝をついた。白薔薇を手向ける。
「ここまでお守りくださりありがとうございました。儀式は滞りなく……う……」
崩れ落ち、墓碑に手をつく。決まり切った文句を言おうとして言葉に詰まった。
「……ゆ、許して……父さん。僕を、僕を許してください……」
『決して心は盗まれるな』
父を喪っても、教えは鋭く刺さったままだ。
そう思っていたのに。気づいてしまった。
『おまえの心は暁宏さまのものだ』
秀一郎に抱かれて、やっとわかった。暁宏への気持ちは恋なんかではなかった。
父が朔哉に施した呪縛だった。何もわからずに二十一年生きてきた。
「僕の心は暁宏さまに捧げられない……僕は、執事失格です」
反対の手で口を覆った。嗚咽が止まらない。
「朔哉くん!」
後ろからきつく抱きしめられた。
朔哉の強張っていた躯から力が抜けていく。しかし朔哉は振り向かなかった。一夜を共にした相手だけど、泣き顔を彼に見せたくない。
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