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第1話

「お父さんとお母さんは仕事で遠くに行くんだ。おばあちゃんとお留守番できるね?」 「うん!僕待ってる!行ってらっしゃい!」 僕、白波瀬 悠那(しらはせ ゆうな)は当時12歳だった。悠那は父に手を引かれて祖母の家に遊びに来ていた。 6月上旬まだ梅雨入りしていないが、雨が降りそうな黒い雲が空を覆っていた。じめっとした日本特有の湿気の多い季節。そんな日だった。 遊びに来ていたと思ったのは僕だけで、祖母の家の庭で飼っている柴犬「げんき」と戯れていた。真っ白なもふもふの毛をなびかせ、短く切りそろえられた芝生の上を走り回っている。 祖母:白波瀬 きみ子の家は平屋だが土地面積が広く、母屋、離れが2箇所もある。離れの1つは祖母の仕事部屋。 祖父清志も健在だが婿養子なので土地は祖母の物。祖父は主に祖母の仕事の手伝いや予約日の受付などをしている。いわゆるマネージャーだ。 母屋の居間には祖父母と父で話し合っていた。 これが父との最後の触れ合いとも知らず僕はげんきと走り回っていた。 当時は幼すぎて周りの変化に気が付かなかったのだ。 父の家系は白龍。癒しの力が長けている。白龍の子孫はΩが比較的多い。それは子を宿せる程の変化にも耐えられ、細胞が栄養を欲する意欲が高いためだとか。α、βより華奢、ゆっくりと成長するため年齢より幼くみえる。 祖母きみ子は白龍の生まれ替わりでは無いものの、霊感が強いし占いもやってのけるスーパー器用人。政治や社長、芸能界あらゆる人が祖母の家に赴き、相談をしたり占ってもらう。 そして、霊感持つ界隈にも名が知れており「白龍会」の幹部の1人である。 それぞれの霊獣会があり、時々幹部が集まる機会もある。俗に言う幹部会。周りの変化や、生まれ替わりが出た時も直ぐに知れるようになっている。 僕はΩで白龍の血筋。霊感もある。母もΩだけど、霊感はなく特に先祖の力もない。 一般人。小学校高学年の時に保健体育の授業で世の中は「男性、女性」「‪α‬、β、Ω」「先祖人、一般人」の人間がいる事を習っていった。 中学生になると第2時成長期に入るため血液検査をして自分がどの性になるのかわかる。 つまり、僕の母は女性、Ω、一般人で霊感はない。先祖人で霊感があるとわかる前から僕は異彩を放っていた。 僕が生まれて2歳になった頃、上の方見ていたり指さしたり、母と話しているのに目線が合わなかったり不思議な子供だったようで段々と母は不安と怖さで手を挙げる様になった。 ――バシッ―― 「どうしてこっちを向かないの?!何を見てるの??お母さんを困らせないで」 左頬がチリッと熱を帯びた。 お母さんよりも後ろで飛んでる靄(もや)に目がいってしまう。 人や、動物とは違う。形がない煙。実態がないから尚更目で追ってしまう。 「あれ、ママ、あれ」 頬を叩かれた事も忘れ「それ」を指さした。 「分からないわよ!!」 一応息子の指の先を見た母だったが当然見えるわけなく、苛立ちと恐怖で大声をあげてしまった。 僕が小学校6年生の頃とうとう我慢の限界がきた母からまた頬を叩かれた。 「でもあそこにおじいちゃんがっっ」 「もう止めて!!」 ――バシッ―― 同じく左頬を打たれた。 人型なら、母も見えてると思って告げた言葉は受け入れられなかった。 拒絶。それから母は笑う事が少なくなっていった。 この頃から僕は何者なんだろうと思うようになった。来年には第1成長期の為血液検査で分かるんだろけど、僕の心にはいつも黒い靄が覆っていた。母と顔を合わせれば恐怖の目。笑わない顔。 いつしか分かり合える日が来るのか、毎日不安で仕方なかった。 学校でも色んなものは見えた。けれど家で「あれ」が見える事を素直に言えば打たれることを知り、自然と見えないように振舞った。 家で居場所がないのに、ここでも無くなれば自分の心が張り裂けそう。生きていけない。 兎に角必死だった。同級生に話しかけられたら目線にも気をつけて、笑顔を絶やさない。 部屋にテレビがある家庭で良かったと思う。 アニメやゲームの話題にはついていけるようにしていた。 それ以外は図書館へ行き自然と医療系の本を読み漁っていた。 この体質がなんなのか知りたいし、変えれるなら変えたかった。 けれど特に「おばけが見える」の類など載っているわけもなく、だけどいつしか医療の本にのめり込んだ。 (僕と同じ体験してる人がいれば手助けできるような仕事をしたい。) と思うようになっていた。 窓の外には春の終わりを告げるように花びらが落ち、青々とした葉が枝に残っていた。 風が吹いているのか、葉が揺れキラキラと光り、太陽に照らされていた。 祖母の家に行く1ヶ月前の事である。

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