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ActⅠ Scene 5 : 潜入! 賭博クラブ。⑨

「いいか? 格下のお前はおれに刃向かうなんざ許されない! 金も地位もあるおれから言わせれば、お前はせいぜいその躰で尽くすほかならない。薄汚い男娼にすぎないんだよ!」  業を煮やした彼は今にも殴りかかってきそうな剣幕を|以《もっ》て、カルヴィンを罵りはじめる。 「さあ来い! おれが直々にベッドでの過ごし方をたっぷり教えてやる!」  カルヴィンの腕を掴むなり、有無を言わさず強引に椅子から引き摺り下ろすと玄関ホールへと向かって歩いていく。  カルヴィンは慌てた。  だってこのままではこの傲慢な男に抱かれてしまうかもしれないのだ。  望んでもいない、況してや同性に抱かれるという不快感と恐怖。  それらがカルヴィンの脳内を締める。  今となっては人目につくとかクリフォードに気取られることなんてどうでも良かった。とにかく、どうにかしてこの窮地を抜け出さねばならない。  しかし悲しいかな。カルヴィンに運動神経は皆無だし、力も弱い。おまけにすっかり怯え、萎縮してしまった膝や腕には力が入らない。この男の腕を振り払う力さえないのだ。  だから声を張り上げ、助けを求めるほかに手段がない。  けれども、いったい誰がこの場で助けてくれるだろう。ここは秩序なんてものは一欠片も存在しない賭博クラブで、しかもカルヴィンは今男娼に間違われている。  ベッドの上で躰を開くしか脳がない卑しい身分の自分を助けてくれる紳士はきっといない。  現に、このクラブにいる彼らの誰しもが、引き摺られていくカルヴィンに好奇な目を向けてくるばかりだ。

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