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Act Ⅲ Scene 3 : in a bind ②
いったいどういう経緯で貴族たちから忌み嫌われているぼうやがカルヴィンの心を解きほぐしたのかは知らないが、とにかくあの血液をみすみす渡してはならない。
あれがカルヴィンの操を奪ってしまわぬ前に始末せねばなるまい。
バランは、地位も名誉も力だって、これまで欲するものはすべて手に入れてきた。魅了することには最も長けている淫魔ヴァンパイアが半端者のぼうやごときに負けることなどあってはならない。
頭に血が上りすぎている。目は赤く充血し、こめかみには何本もの青筋が立っていた。窓に写る姿を目にしたバランは呻り声を喉の奥に仕舞い込む。
とにかく今はこの怒りを晴らす必要がある。
バランはテーブルの上にあった呼び鈴を二回鳴らした。静かすぎる空間に鳴り響く鈴の音は、しかし怒れるバランにとっては小さいように思えた。数分も経たずにやって来たのは最近雇った小間使いの少年だ。年は十六。大きな翡翠の目とブロンドの髪はカルヴィンを思わせる。彼は数日前、路上で売られていたのをひと目見て気に入ったバランは住み込みで働かせていた。
「お呼びでしょうか、バラン様」
ドアの前で恭しく頭を下げる少年に手を伸ばし、華奢な身体をテーブルに押しつけた。同時にティーカップと対になっているソーサーがテーブルから落ち、鈍い音を立てて割れる。
「ご主人様!!」
何事かと怯えを見せる翡翠は恐怖の涙で揺らめく。バランは驚愕に震える少年の目に気分が高揚するのを感じた。
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