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2.風波と偽りの凪(1)

「それはない」  と、薫と柏尾が口を揃えて言った通り、翌日も優駿は店にやってきた。それも開店直後にわざわざエスカレーターを小走りに上がってきて、悪びれもせず「おはようございます!」と笑顔で言い放った。  宰は思わず手に持っていた展示用携帯を机の上にゴトリと落とした。カウンター内でパソコンのモニターを眺めていた薫が、その様を見て「ホットモックじゃなくて良かったわね」と小さく肩を揺らす。  薫は改めて優駿に向き直ると、「いらっしゃいませ」とそつのない営業スマイルを浮かべて見せた。 「……いらっしゃいませ」  薫に遅れること数秒、宰も一応挨拶はする。しかし、言葉に反してその口調はどう聞いても歓迎しているようには聞こえない。  宰は深い溜息をついた。  それから暫しの逡巡を経て、徐に口を開く。 「小泉さん。今日は学校がある日じゃないんですか」 「や、あの……昨日俺、なんか失礼なこと言っちゃったみたいだから、とにかく先にそれを謝っておきたくて」 「じゃあ別に休講と言うわけじゃないんですね? それなら優先すべきはどちらだか考えればわかるはずです。とっとと学校に行きなさい」  追い立てるように言うと、優駿は見るからに元気をなくす。 「で、でも俺……」  それでも何とか言い募ろうとする優駿を置き去りにして、宰は取り落としたサンプル筐体を拾い上げ、つかつかと展示用の棚の前へと歩いていく。  優駿はカウンター前に佇んだまま、そんな宰を目で追って、それから足でもその後を追いかけた。 「反省したんです。だって俺、美鳥さんに嫌われたくない……」 「嫌うも何も……。好きか嫌いかだけで言えば、私は年下は嫌いだと前にも言ったでしょう」  頭に犬の耳でもあればさぞかし力なく伏せられているのだろう。優駿の挙動はそんな光景を彷彿とさせる。 「……ホント、めげないコねぇ」  パソコンを操作する傍ら、薫が苦笑混じりに呟いた。 「いいから学校に行きなさい」 「美鳥さんが許してくれたら行きます」  展示機種の在庫表示を確認しながら、サンプルの並びを整えていた宰の手が止まる。 (……だから、許すも何も……)  その無駄にはきはきとした物言いに、宰は閉口し、ただ頭痛がするとばかりに額を押さえた。 「宰」  と、不意に通路側から、聞き覚えのある声がかかる。半ば棚の死角となっていた場所から姿を現したのは柏尾だった。

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