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💕番外編3『ある春の日のこと。』(14)
「あ、宰さ…っ……」
優駿は堪えるように目を眇め、背中から羽交い締めにするように宰の身体を抱き締めた。そして一気に抽挿するペースを上げる。
「あぁっ! あ……っも、やめ……っ」
苦しいほどの性感が全身を駆け抜けていく。
ぐちゅぐちゅとあられもない音を響かせながら、過ぎるほど熟れた粘膜を掻き乱される。執拗に擦られ、穿たれる場所から、半ば強制的に高みへと追いやられていく。
もう無理だ。これ以上は付き合いきれない。いますぐ解放して欲しい。
そう思うのは嘘じゃないのに、身体はまるで正反対な反応を返すから堪らない。
(もう……おかしくなる……)
明滅する意識の中で、蕩けるような甘い疼きが全身に広がっていく。既に達した回数などすっかり分からなくなっているくらいなのに、張り詰めた屹立からはしつこく雫が溢れ、優駿へと絡みつく襞はいっそう強請るように収斂を繰り返していた。
「つ……、宰さんの中…すごく、熱い……、あの、俺…もうっ……」
「ん……っい、いいっ……いいからっ、とっとと、いっ……ぁ、っ…――!」
その言葉を聞いてか聞かずか、優駿は急くように宰の腰を抱え込み、突き入れるようにして最奥を貫いた。宰の口から、声にならない悲鳴が上がった。
接合部をより密着させるよう腰を押しつけられると、間もなく優駿の下肢が強張ったのがわかった。かと思うと、身の内を焦がすような熱が叩きつけられる。断続的なそれに、宰の背筋が伸び上がるように撓り、固く閉じた瞼の下から、生理的な涙がぽろぽろとこぼれて落ちた。
空気を求めるみたいに唇が戦慄き、――気がつけば宰も飛沫を散らしていた。
* * *
冷たいミネラルウォーターの入ったグラスを手に、寝室に戻った優駿は、布団の上でぐったりと横たわっている宰の傍に膝をつく。まるで意識が無いように閉ざされた双眸の上には、先刻取り替えたばかりの濡れタオルが乗せられていた。
「あの、宰さん。お水持って来ました」
畳が濡れないようにと一緒に持ってきたトレイにグラスを置いて、控えめに声をかけると、ややして宰の唇が小さく動いた。
「氷は……」
「入ってます」
優駿の返答に、片手で目元のタオルを掴む。重いまぶたをゆっくり持ち上げ、力の入らない腕で身体を支えながら、どうにか上体を起こしていく。それだけで着ている浴衣が乱れるのは、風呂から出た後の、優駿の着付けが悪かったせいだ。「大丈夫ですか」と、ふらつく宰の背中に、優駿がそっと手を添える。
「ん……」
差し出されたグラスを受け取り、からからに乾いた喉へと水を流し込む。砕かれた氷が共に奥へと滑り落ち、その心地よさにようやくほっと息をついた。
「すみません、俺……、気がついたら夢中になってて……」
宰が水を飲んだことに安心したのか、改めて頭を下げる優駿に、宰は呆れたように息を吐く。
「すみませんじゃねぇよ。お前は俺を殺す気か」
言葉のわりに、責める様子もなく答えると、優駿は「すみません」とますます恐縮そうに肩を窄めた。
「まぁ、今に始まったことじゃねぇけどな」
宰は苦笑気味に呟いて、空になったグラスと持ったままだったタオルを優駿に押し付けた。はっとしたように顔を上げた優駿が、受け取ったそれをそそくさとトレイに戻す。そんな優駿を横目に、宰はふたたび布団の上へと倒れこんだ。
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