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第1話
「どうかな?」
生徒会長の藤崎は、クルッと回ってにっこりと笑った。
制服のプリーツスカートがふんわりと舞い上がる。
それを見ていた副会長の鬼塚と書記の林田は目を見張った。
「凄く良いっすよ! 会長!」
林田は、ハッとしてすぐに手を叩いて褒めた。
鬼塚は、まだ言葉が喉から出てこない。
(か、可愛い。可愛い過ぎる。ただでさえ可愛い会長が、女装とか最高! 生きててよかった!)
鬼塚は脳内で絶賛するのだが、表情はピクリとも動かない。
藤崎会長は、そんな鬼塚の顔を見て少しがっかりした。
だが、すぐに林田に顔を向けて、
「本当? 林田君ありがとう!」
と、笑顔で礼を言った。
林田は、「まじ可愛い。オレ、惚れちゃいますよ!」と軽い世辞を述べるのだが、一向に口を開かない鬼塚に気付いて顔をしかめる。
「ほら、鬼塚先輩も何か言って!」
「鬼塚君、ボクどうかな?」
藤崎は、恥ずかしいのだが、この日の為に準備してきた渾身の女装である。
是が非でも鬼塚に感想を貰いたいのだ。
それに、女装を自ら勝手出たのも、自分に全く無関心な鬼塚に少しでも気にしてほしい、という気持ちが根底にあったからなのだ。
(鬼塚君。可愛いって言って。お願い……)
藤崎は、祈るような気持ちで胸の前で手を組む。
そんな藤崎の仕草にも完全に萌え萌えの鬼塚だが、
「まぁ、一応、女には見えますけどね」
と、ぶっきらぼうに答えた。
そんな答えでも、藤崎は、
「本当!? 良かった!」
と、ぴょんぴょんとジャンプして喜ぶのだった。
(うおー! ヤベェ! めちゃくちゃ可愛いじゃん! 天使? 天使なの!?)
鬼塚は、頬の筋肉をピクピクさせるも何とか平静を保った。
ここは市内の私立高校。
美映留 学園高校。
数年前からジェンダーレスを掲げて制服の自由選択が導入されていた。
男女の制服を性別問わず自由に選べる制度である。
この制度の導入は先進的な教育理念として世間で高い評価を受けた。
しかし、実情はというと、今日に至るまでこの制度を活用している生徒は皆無なのである。
全く浸透していない。
これを是正するのが生徒会に与えられた使命であった。
制服ぐらい気軽に着ればいい。
気にする事は何もない。
生徒会はこれを目指して、自らがその手本となるべく、制服選択制度のプロモーションをする事になったのだ。
そこで真っ先に手を挙げたのは、会長の藤崎 歩 である。
藤崎は、父親に外交官、母親に音楽家を持ち、成績優秀、容姿端麗の完全無敵のお坊ちゃん。
ただ、背丈は高校生にしては少々小さく、顔つきはあどけなさを残す少年のようで、このギャップが堪らないと、学園中で絶大な人気を博す。
で、何故、この藤崎が自ら進んで立候補したのか?
責任感が強いというのも有るだろう。
しかし決定打は他にある。
実は、密かに副会長の鬼塚に恋をしているのだ。
もう、四六時中、鬼塚の事が気になって仕方ない。
そんな思いもあって、女装をすればワンチャン有るのではないか? と一大決心をしたというわけなのだ。
さて、その藤崎が恋焦がれる副会長の鬼塚という男がどんな男か。
フルネームは、鬼塚 玲司 。
こちらはよくいるタイプのいわゆる普通の中流家庭の男子学生。
成績はそこそこ、容姿もどちらかと言ったらカッコいい、ただスポーツだけは何でもこなす、といった程度。
なのだが、藤崎の目から見ると、鼻筋が通って、切れ長の目で、涼しげで、くしゃくしゃとした髪で、それはもう全てが好みのど真ん中なのだ。
で、この平凡を絵に描いたような鬼塚だが、ちょっとした特徴が有る。
一言で言うと、むっつりドSなのだ。
しかも、タチが悪い事に、藤崎の事を溺愛しているときている。
プライドが高く、胸の内を絶対に明かさない。
そんな、ちょっと捻れた性格の持ち主。
とはいえ、一見、藤崎と鬼塚は両思いでなんの障害もない様に思われる。
どちらか一方が告白すれば、即カップルの出来上がり、のはずなのだが、この鬼塚のプライドの高さが話をこじらせているのだ。
と言う事で、生徒会が発足して3ヶ月は経とうかという今でも全く進展していない二人なのだ。
さて、この物語はそんな会長の藤崎と副会長の鬼塚の話である。
それともう一人、書記の林田という男子学生についてだが、この男にも特異な性癖があるのだが、この物語ではごく一般的な男子学生という役回りである。ぜひご承知置き頂きたい。
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