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第2話
ここは生徒会室。
藤崎、鬼塚、林田の3人は放課後に集まった。
そもそもプロモーションで何をすべきなのか?
これは事前の会議で決定済みだ。
会長の女装姿と、それをエスコートする副会長があたかもカップルの様にポーズを決めて写真に収まり、それを広報にどかっと掲載する。
しかし、それだけではつまらない。
全生徒が注目する様なインパクトが欲しい。
じゃあ、色っぽいキスシーンを撮ったらどうか?
と、林田のしょうもないアイデアに、藤崎も鬼塚も内心ガッツポーズをしながら、渋々と承諾したのだ。
林田は、さっそく生徒会費で購入したデジカメを手にして指示を出す。
「じゃあ、お二人とも向かい合わせで寄り添って貰えますか」
「はい!」
「……ああ」
いい返事の藤崎に対して鬼塚は投げやりの返事。
藤崎は、鬼塚の前に立つと上目遣いに鬼塚を見た。
「もっと近づいてもいい?」
藤崎は、おそるおそる鬼塚に問いかける。
色白の頬がポッと赤く染まる。
(ヤベェ、ちけぇよ、可愛いよ。何、このほっぺ。さわりてぇ!)
鬼塚は、そんな気持ちとは裏腹に顔を横に背けて言った。
「俺、こんな近いの嫌なんすけど……」
鬼塚のぶっきらぼうな言い草に、藤崎はしゅんとした。
「ごめんなさい。鬼塚君。気持ち悪いよね……女装した男子だもんね……」
藤崎は、そう小さい声で言うと申し訳なさそうにうつむいた。
(やっぱり、ボクの事なんて嫌いなんだ……鬼塚君、顔まで背けて……泣きたくなってきた)
藤崎は、キッと唇を噛み締めて泣くのを必死に我慢する。
その顔を鬼塚はさりげなく見ると、
(しまった……つい意地悪を言ってしまった……まずかったか?)
と、後悔するのだが流石のドS。
(うはっ! 泣きそうな顔も可愛くて最高!)
どう見ても、好きな子を虐めて喜ぶ小学生そのもの。
結局は、はたから見ればこの二人、どうしてこうも仲の悪いのか理解出来ない。
「ふぅ、まったくもう!」
林田は、ため息をつくと、場の空気を取り持つように言った。
「鬼塚先輩! 我慢して下さい。撮影の間だけっすから!」
「分かったよ!」
鬼塚は、渋々承知した。
もちろん、心中はナイスフォロー林田とグッドサインを出している。
鬼塚が一歩前に近づくと、藤崎は嬉しそうに、でも恥ずかしそうに落着きなく体をソワソワさせた。
でも、目はキラキラと輝かせ鬼塚の目をじっと見つめる。
(鬼塚君とこんなに近い、緊張するなぁ。鬼塚君って、やっぱりカッコいい……ああ、幸せ)
一方、鬼塚も、
(はぁ、はぁ。会長、どっからどう見ても可愛い。良い匂いがする。はぁ、はぁ)
と萌えまくる。
見つめ合う二人。
時が止まる。
二人とも、このままずっといたい。
そんな夢心地に浸っている。
ただ一人、林田は貧乏ゆすりが止まらない。
一向に打ち合わせ通りのシャッターチャンスが来ないのだ。
林田は、しびれを切らして言った。
「会長! 鬼塚先輩! そのままキスしちゃってください!」
「!?」
鬼塚はハッとした。
藤崎も、えっ?っと我に返り、
「……そ、そんな、鬼塚君とキスだなんて」
と、もじもじしながら答えた。
林田は、呆れたように言う。
「お二人とも! 何を言っているんですか。最初にキスをお願いします、って言ったじゃないですか」
鬼塚は、今更ながらにキスをすることを思い出す。
(キスって、本当にするのか? キスしてぇ……けど、このままじゃ萌え死ぬ。俺は絶対に死ぬ!)
鬼塚の脳内ではパンク寸前。
しかし、プライドの高い鬼塚。
キス如きでビビる姿を見せられない。
鬼塚は、当たり障りのない言い訳を思いつくと、心底嫌そうな顔を作って言った。
「そんな事を言ってもな、林田。会長の女装じゃ、俺、萌えねぇわ……キスなんて無理無理」
鬼塚のその言葉に、藤崎は再び打ちひしがれる。
「……鬼塚君。ごめんなさい」
「別に、会長が謝ること……」
鬼塚は、そう言ってから、藤崎の唇に釘付けとなった。
藤崎の唇は、リップの効果なのかツヤ感が溢れ出ていて、果物のようにぷるぷるしている。
(何て柔らかそうな唇なんだ。はぁ、はぁ、あの唇に触れてぇなぁ。素直に、キスしておきゃよかったか? いや、しかし……)
鬼塚の自問自答を林田の叫び声が遮った。
「鬼塚先輩! 会長はこんなに可愛いのに、いったい何が不満なんですか! 何だったら、俺が変わりますよ、もう!」
「なっ……」
鬼塚は慌てて否定しようとするが、林田は間を置かず、あれ!っと声を上げた。
「もう! お二人とももたもたしているから、カメラのバッテリー切れちゃいましたよ! あの、俺、ちょっと、予備のバッテリーを取ってきます。ちょっと待機していてもらえますか?」
林田はそう言うと、カメラを片手に生徒会室を飛び出して行った。
鬼塚は、ホッとしながら林田を見送った。
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