1 / 38

新人クンにはまだ早い 1

 悠己(ゆうき)がラウンジの扉を開けると、中から切れ切れに甘い声が聞こえてきた。誰だろう、と思う間もなく、ぱちゅ、ぱちゅ、と水音も響いてくる。  見れば、ソファの上で誰かに覆いかぶさって、腰を動かしている者がある。そしてそれを見物している者の姿もあった。 「何してんのさ」  近付いてみると、ソファに組み伏せられて脚を開いていたのは、初めて見る顔だった。おそらくは二十歳前後の、可愛らしい顔立ちで、揺さぶられる度に茶色の髪がさらさらと流れるのが綺麗だった。 「あー、悠己おはよう」  ソファの横に膝をついて、行為を眺めていた同僚の直純(なおずみ)が笑う。腰を振っているのも同じく同僚の健慈(けんじ)だった。 「おはよう。で、何してんの?」 「新人クンの自主練? 初めての人とのえっちでイク自信がないって言うから、健慈のちんこで練習中みたいな」 「健慈じゃだめでしょ、誰でもイッちゃうじゃん」  仕事でタチもネコもこなす健慈は、当然ながらテクニシャンだ。以前ふざけついでにキスをしたら、キスと上半身への愛撫だけで腰が砕けそうになってしまった。 「だからオナホだと思って腰振ってるだけだよ」  息をつきながら健慈が言った。健慈でもオナホなんか使ったことあるのか、と悠己はどうでもいいことを考える。精悍な顔立ちにつややかな黒い髪が憎らしいほど男前で、男にも女にもモテるタイプだと一目でわかるし、実際そうだと知っている。 「あっ……あっ……んんっ、んっ……」  甘い声を漏らしている新人クンは、ただペニスで突かれているだけでもしっかりと勃起して、その先端を濡らしていた。 「初めまして、俺悠己。名前何て言うの?」  新人クンは切なそうに眉を寄せながら、悠己の顔を見上げて、ひろや、と答えた。 「ヒロヤくん、どんな字?」 「い、いとへんに、ひろいって書いて、やよいのや……」 「紘弥くんか。よろしく。研修もう終わったの?」  訊くと、紘弥はこくこくと頷いた。 「あ、明後日から、あっ……お店に出るから、今日はまだ見学でっ……」  性交の快感に酔いながら、律儀に返事をする後輩の姿が可愛らしくて、悠己は微笑む。 「そっかー。研修でイケなかったの?」  紘弥はふるふると首を振った。 「みっ、みんな、優しくて上手かったから……っ」 「じゃあ大丈夫だよ、お客さんもそんなに下手くそな人いないもん」  早い人はいるけどね、と直純は笑った。 「気持ちの問題だよねー、自信持って仕事できた方がいいもんね」  そう言って、直純は紘弥の頭を撫でる。紘弥は息が乱れて、うまく返事ができないようだった。 「でも、こんなにみんなに見られながらえっちするなんて新人のうちはそうないよ。紘弥くんは見られて興奮しちゃう方?」 「わ、わかんな……っ」 「あーすっごい気持ちよさそう。めちゃくちゃえっちな顔してる。人気出ちゃいそうだなー」  悠己が呟くと、直純はくすくすと笑った。 「悠己とは競合しないんじゃない? どっちかっていうと僕のお客さん取られちゃいそう」 「そーだね、あるかもね」  悠己は童顔で身体も小さいので、少年趣味の客が多い。紘弥も若く見えるタイプだろうが、幼いという印象はなかった。 「ああっ……あっやっ……だ、だめです、けんじさ、だめっ……!」  とうとう紘弥が切ない声で訴え始めて、直純は悠己を見上げながら言った。 「紘弥くんほんとにお尻以外何もされてないんだよ。全然大丈夫だよね」 「そうなの? そんなえっちなお尻、才能じゃん」  紘弥はソファの上で身をよじる。ぱちゅ、ぱちゅ、と音を立てる健慈のペースは変わらなかった。 「我慢しなくていいんだよ紘弥くん、いやらしくていっぱい気持ちよくなれる子ほど、みんな大好きになってくれるんだから」  直純の言葉に、紘弥は目を潤ませながら喘いだ。 「んっんっ……おれイッちゃいますっ……もうだめっ……! あああぁ!」  紘弥はたまりかねたように、痙攣するペニスの先端から、ぴゅっ、ぴゅっと精液を吐き出した。射精が終わってもなお、紘弥のペニスはひくひくと動いて快感に悶えているようだった。 「トコロテンじゃん。えっちだなー」  ぐったりとした紘弥の額を悠己は撫でる。汗で張り付いた前髪を払ってやると、とろりと蕩けた茶色の瞳が見上げてくるのが愛らしかった。

ともだちにシェアしよう!