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恋という名前 9

 抱き締められて、指を舌を絡められて、ときにはベッドに押し付けられながら、硬く熱いもので何度も奥を突かれて、紘弥はもう元の自分には戻れないのではないかと思うほどに乱された。  泣き喘ぎながら、浩一が自分の中で射精したのを感じたときは、そのことが嬉しくて震えながら果ててしまった。  浩一とのセックスはいつも気持ちよかったけれど、こんなに感じてしまったのは初めてだと振り返ることができたのは、浩一が紘弥の濡れた身体を拭いて、布団をかけて抱き寄せて、なだめるキスをいくつもくれた後だった。 「……ごめん、無理させた?」  申し訳なさそうな浩一の目に微笑んで、紘弥は首を振る。乱暴なことも嫌なことも、何ひとつされていなかった。 「すごく……気持ちよかっただけです……」  そう言うと浩一は照れたように笑って、紘弥の髪を撫でてくれた。 「俺も……すごく良かった……。幸せすぎてどうかなりそうだったよ……」  浩一の笑顔が溶けそうなほどの幸せを物語っていて、紘弥も笑う。その目許に唇を押し付けられて、くすくすと声が出た。 「……ねぇ、紘弥くん」 「はい?」 「俺……また君のお店に会いに行ってもいいのかな」  紘弥は瞬く。すぐには浩一の意図がわからなかった。 「え……それは、もちろん……。でも……」 「その、やっぱり俺、仕事してるときの紘弥くんも好きだなと思って……」 「……」 「や、君があんまり気乗りしないんだったら、全然、お店には行かないようにするけど」  浩一がまるで一生懸命言い訳をしているように見えて、紘弥は苦笑した。 「そんなの、俺は嬉しいだけですよ。浩一さんと過ごしてお給料もらうなんて、これまでだってズルしてるみたいな気持ちで……」 「ええ? いつもちゃんと仕事してるじゃない」  不思議そうな顔をする浩一をまじまじと見つめて、紘弥は少し声を潜めて言った。 「……ていうか、仕事、辞めろって言わないんですね」  浩一は心底驚いたというように目を丸くして、慌てたように言った。 「そんなの言うわけないよ! えっ、俺何か嫌そうな顔してた?」 「してないですけど……でも、恋人がこういう仕事してるの、嫌がる人が多いから……」 「それはわかるけど……、……俺は紘弥くんはすごくいい仕事してると思うよ。そのおかげで君と会えたっていうのもあるけど、本当に、君の笑顔とか温かさに救われてる人、俺以外にも絶対いると思うから」 「……」 「君が疲れたりつらくなるんだったら、無理して続けることないと思うけど……俺は辞めてほしいなんて言うつもりないよ」  その目が真摯で、声音もまるで紘弥を説得しようとしているようで、紘弥はついくすりと笑ってしまう。 「……浩一さん、優しすぎて変わってるって言われません?」 「なんだいそれ……言われないよそんなの」  どこか拗ねたような口調で言って、浩一は枕を引き寄せた。  ずっと年下の紘弥に対して、浩一はいつも尊重する態度を崩さなかった。こうして関係が変わっても、そのことに変わりはないのかと思うと、きちんと告白してよかったと改めて思う。 「浩一さんは……恋人とどういうふうに付き合いたいですか?」 「え? ……連絡の頻度とかそういうこと?」 「そういうのも含めて……どんな恋人がいたら嬉しいのかなって」  浩一はきょとんとして紘弥を見たかと思うと、すぐにくしゃりと笑った。 「そんなの、紘弥くんは俺の理想以上だから、何も言うことないよ」 「ええ? それはいくらなんでも……それに浩一さんが知らない欠点がたくさんあるかもしれないじゃないですか」 「ああ、俺、そういうのをこれから知っていけるのかなって思って、すごく楽しみだよ。俺のを知られるのは嫌われそうで怖いけど……君のはすごく楽しみ」 「こ、浩一さん」 「君の苦手なこととか、嫌いなものとか、……お店では気を遣って言わないこと、いっぱいあるんだろうなって思ってたから……。これからたくさん知りたいよ」  本当に楽しみでしょうがないのだとその優しい目が言っていて、紘弥はひどく照れくさくなる。布団をつかんで顔を埋めると、浩一が笑う声が耳をくすぐった。 「……紘弥くん、俺、君のいい恋人になれるようにがんばるから……これからよろしくね」  温かい手で頭を撫でられながらそんなことを言われて、恋心が騒いでたまらなくなる。浩一もこれに似た気持ちを持ってくれているのだろうかと思うと、いっそう胸がいっぱいになった。 「俺も……浩一さんが素敵だって思ってくれるような大人になりたいので……よろしくお願いします」  いささか弱い声でそう言うと、浩一は笑って、それ以上素敵になったら俺の心臓が持たないよ、と、紘弥の頭を抱き寄せた。

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