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第1話

水の抵抗を感じさせず、まるで水と一体化している様に泳ぐ影 「篠宮!!ラスト上げろ!!」 外部コーチの発破をかける声が屋内プールに響く。 指先が壁についたそのタイミングでストップウォッチを止めると、また部内新記録で誠は思わずおぉ〜、と声を上げた 「才田!どうだった?」 「篠宮くんお疲れ様、ベストだよ!やっぱエースは凄いなぁ」 「な〜に?誠、白昼堂々浮気?」 「えっ、違うよ!」 「そう?心配だなぁ」 「本当だよ、はい、お疲れ様」 「ははっ、ご馳走様、他所でやれ」 ラスト一本を篠宮と共に泳ぎ終えると、直ぐに自分の元へ走って来た愛しい恋人、櫟田に労いの言葉とセームタオルを渡すと頭を撫でられ胸が温かくなる。いつものそれを見て篠宮は苦笑いした。才田と櫟田は男同士だが恋人なのだ。全寮制の男子高校で、人付き合いが苦手な才田は入学当初から自分の事を色々気にかけてくれる櫟田の事を好きになるのにそう時間は掛からなかった。もう最後までやる事はやっているし今のところ交際は順調の様に感じる。 だが同室で、しかも同じクラスで水泳部エース、オマケに勉強も出来る欠点なしのイケメン、篠宮を褒めていたのを聞かれ少し申し訳なくなる。もし櫟田が自分の前で他の人を褒めていたら良い気はしないだろう。 櫟田も、もちろんかっこいい。惚れた欲目無しに見てもイケメンという部類に入るだろう。 「誠は抜けてるしやっぱ心配だな〜」 「え?そんなこと無いよ。着替えたらすぐ帰る?」 「うん。すぐ着替えるからちょっと待ってて」 「出口で待ってる」 そう言い篠宮と更衣室へ消えた櫟田を見送り、プールの出口へ向かう。付き合っているとは言え、整ったルックスに明るい性格のせいで櫟田はクラスでいつも人に囲まれている。全寮制なので夜間の部屋間の移動は禁止されているし、休日もインターハイ前なので中々二人きりになるチャンスはない。そんな日々で、部活終わりのプールから寮までの短い距離であるが二人きりになれるこの時間が誠は楽しみだった。

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