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第2話

「誠!お待たせ」 「全然待ってないよ大丈夫、帰ろ」 よく女の子がデートの待ち合わせで少し遅れてきた彼氏に同じようなセリフを言うが、誠は本当に全然待っていなかったので少し微笑みながら櫟田に帰りを促した。 急いだからであろう誠より少し高い位置にある櫟田の黒髪から水が滴る。いくら夏前で蒸し暑いとは言えインターハイ前に体調を崩しでもすると今までの練習の努力が水の泡だ。 「俊、髪濡れてる」 「え?あ、本当だ。誠に早く会いたくて」 「もう!またそんな適当言って!早く拭きなよ」 「本当だよ。ごめんごめん、ちょっと持ってて」 そう言い右手に持っていたスマホを手渡される。櫟田が頭をセームタオルで拭き出してすぐ、誠が預かっているスマホがブブッと震えた。条件反射で画面を見ると『明日はいつも通り私の家でいい?』というメッセージが表示されている。名前は『あかね』女だ。心臓がドクリと嫌な音をたてる。今日は金曜日。明日の練習は休み。先日、俊に週末出掛けられるか聞いたがその日は予定があると断られたのを思い出す。憶測だが点と点が繋がったような感じがして、指先が少し冷えた。 「ありがとう誠」 「あっ、うん。」 櫟田にスマホを返しながら画面を見た事、気付かれないだろうか?と窺うように櫟田を見上げるが『なに?水も滴るいい男だった?』と微笑まれ、安心する。何、自分がやましい事したわけじゃないのに。ブンブン首を振ると心配した様に顔を覗き込まれ、頬が熱くなった。 それからたわいもない話をしていると寮に着く。エレベーターに乗ると直ぐに櫟田と才田の部屋があるフロアについた。 「着いたね」 「寂しい?」 「うん」 普段はひねくれた性格が邪魔して言えない事も、さっきのメッセージのせいで言える。どこの誰だか知らない女のせいで素直になれるなんて笑えない。可愛くないな自分。 「また月曜な?いつでもLimeして」 「うん。ばいばい」 そのまま去るかと思っていた櫟田の顔が不意に近付いてきて、ぎゅっと目を瞑ると、誠の額にちゅっ、と可愛らしい音を立ててキスが落とされる。 「こ、ここっ、共用スペース」 「うん、大丈夫だよ。じゃあな」 「うん、ばいばい」 今度こそ、誠に背を向け自分の部屋に入った櫟田を見て、誠も自室へ戻った。キスされた額には、まだ柔らかい感触が残っていたが触ると消えそうな気がして、あえて触らなかった。

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