3 / 51

第3話

月曜 「才田、どうだった?」 「凄いよ篠宮くん!またベスト!!おめでとう!!」 ザバリとプールサイドに上がってきた篠宮にストップウォッチを見せると小さくガッツポーズしながら喜んでいる。 そんな篠宮を見て誠も頬を綻ばせた、ところで肩に重みを感じて振り返ると櫟田が拗ねたような表情で誠の肩に手を置いていた。 「誠また浮気〜」 「違うって!またベスト出たからおめでとうしてた」 「ふーん?てか篠宮すげぇな〜。絶対勝てねぇ」 「まぁ、エースだからな。櫟田、着替え行こう」 「おう、誠いつものとこで待ってて」 「うん」 いつものとこってプールの出口だよな。更衣室へ向かう篠宮と櫟田の後ろ姿を見送り、出口で待っていようとした誠は自分の目を疑った。 「…何あれ…」 こちらに背を向けた櫟田の首に見えるのは赤い跡。 よく漫画で虫刺されなんて言って誤魔化したりするシーンがあるが、実際に見ると全然虫刺されとは違い生々しく見える。 (キスマ、だよな、間違いなく) 櫟田は誠に所有印をつけられるのを酷く嫌がっていた事を思い出した。服で隠れる所でも水着になると全て見えるから、らしい。誠もそれを信じて我慢していた。なのに、首の後ろに見えるのは、誠が付けるのを拒否され続けていた所有印。なんだよ、俺には駄目って言ったくせに、てかやっぱ女かよ。俺もう好かれてないのかな、飽きられたのかな。 ひくりと喉が引き攣った。 気付くといつの間にか自分のベッドにうつ伏せに転がっていて、スマホの画面には『早く寝ろよ』と櫟田からのメッセージが来ている。脈絡もなく何だ?と思い、トーク画面を開くと『急いでやらないといけない課題やるの忘れてたから先に帰るね。お疲れ様』と自分から送った履歴がある。あぁ、そうか、あのまま出口で櫟田を待っていたとしてもいつもの様に楽しい気分で帰れない、会うと情けなく泣き叫んで問い詰めそうな気がして、そう送ったんだと思い出した。 目の奥がジンとして熱い涙が目から零れ落ち、シーツをじんわりと濡らす。先週金曜日の『あかね』からのメッセージと今日見たキスマが関係あるかと言われればまだ分からないが、マイナス思考に陥った頭では何も考えられないしほぼ100%『あかね』がつけたものだろう。 「…っ、ふ、…ぅ…」 部屋にいる篠宮に聞こえないように嗚咽をこらえる。 同室とは言え、私立なので二人一組、ひとつのリビングとそれぞれの個室がある。2LDKだ。リビングを挟んだ所にある篠宮に聞こえるはずはないが、必死に息を殺した。

ともだちにシェアしよう!