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第21話

キッチンの方からガチャン!ガタン!と大きな音がした後に誠の『うわぁ!』という悲鳴。これで何回目だ、と頭を抱える篠宮。『テレビでも観て待ってて!』と言われて録画していたバラエティ番組を観ているが全く内容が入ってこないし、この音じゃ誠が、というよりキッチンが心配になるレベルだ。篠宮はソファから腰を上げ誠を後ろから覗き込みに行く。 「できた?」 「えっ、あっ!待っててって言ったじゃん!」 「いや、音すごいから心配で…」 「大丈夫!もう出来るよ!!」 そうニッコリ笑い自信満々にフライパンを篠宮に見せる誠。そこに乗っているのはオムライスの卵というよりスクランブルエッグな気がするが笑顔に免じて目を瞑る。 (…完全に俺の新嫁だ…) 「…いや…寮だしもう同居…新婚…?」 「?もうできたから持ってくよ」 「…うん」 ローテーブルに置かれた皿に乗っているのはケチャップライスと…やっぱり先程のスクランブルエッグが申し訳程度に添えられていた。 じーっとオムライス(?)を凝視する篠宮を見て誠は小さく料理紹介をする。 「…オムライス…です」 「その顔は自覚あるんだ」 「…オムライスだし…」 「美味そう。あ、ケチャップで好きって書いてよ」 「やだ」 「外で手繋ぐのは良いのに?」 「…それとこれとは別」 手を繋ぎたいと言った時みたいにサラっとやってくれるかと思ったら誠は顔を顰めて最高に嫌そうな表情をした。篠宮は内心クソデカため息をつきながらケチャップを持ち、誠の前に置いてある皿を引き寄せる。スクランブルエッグの上に『すき』と書くが、表面がボコボコなのでよく分からないが誠には伝わったらしい。じわじわと頬を紅潮させている。 「も、もう!ケチャップ貸して!一回だけだからね!」 「え?良いの?」 「はいどうぞ」 篠宮の前に戻ってきた皿にハートが描いてある。 誠らしい形の綺麗なハート。スクランブルエッグの上だと分かりずらいからなのか、皿に直接描いてある。 「練習したの?綺麗だね」 「練習なんかするわけないよ…早く食べて!」 「いただきます」 スプーンに掬い、一口食べる。誠は心配そうな顔で一連の流れを見ている。 「美味いよ」 「ほんと?大人しく篠宮くんに作ってもらえば良かった…」 しゅん…とまるで仔犬が耳を垂らす様に落ち込む誠。 篠宮は安心させるようにニコッと笑い誠の頭を撫でた。 その手のひらに自分から頭を押し付けられ篠宮の心臓はフルスピードで鳴り出す。指通りの良い細くて柔らかい黒髪の感触を暫く楽しんだ後、名残惜しくまたスプーンを持ち直した。 「今度は一緒に作ろうか」 「…うん」 「ほら、誠も食べよう」 「うん、いただきます」 むぐむぐケチャップライスとスクランブルエッグを食べる誠はハムスターみたいで微笑ましい。 こんな毎日がずっと続きますようにと祈りながら世界一美味しいオムライスを平らげる篠宮だった。

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