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第22話
期末テストも終わり、来週末にインターハイが迫り来る為、今日も水泳部は練習していた。休憩タイムに入り部員はそれぞれ水分補給をしている。篠宮は他の部員とまだ泳いでいたので誠はそれを遠くから眺めていた。
不意に隣に誰かが立つ気配がして横を向くと真剣な顔をした櫟田が誠を見つめていた。この間の件もあり少し距離をとる。
「誠」
「な、なに」
「この間はごめん。顔…痛かったよな?」
「全然気にしないで。もう忘れて良いから。」
(またあの顔だ…)
櫟田は誠の事を本気で心配しているような表情をしている。誠に怪我を負わせたのは自分なのに。思わず少し睨みつけてしまう。そんな誠に気付いているのかいないのか櫟田はスゥッと大きく息を吸い話し始める。
「俺、インターハイで篠宮より速いタイム出すから」
「…え?」
「誠…俺、篠宮に勝つから。勝ったら…勝ったら、また俺のこと見てくれる?」
「…急に何…意味分かんない、んだけど」
「俺、頑張るから。見てて。」
それだけ言うと他の部員の方へ歩いて行く櫟田。
顔はもちろん痛かったが、もっと痛かったのは心の方だ。
ずっと好きだった恋人に浮気されたと思ったら怪我させられて次は『また俺を見てくれる?』だ。思考回路が追いつかない。連続でため息をつきながら一人になりたかったので用具入れに逃げる。今、櫟田は来ないだろう。
「…はぁ…」
「ま〜ことちゃん、どうしたん?田中様に話してみ?」
「うわっ、びっくりした…田中そんなキャラじゃないよね…」
「いやぁ〜悩まし気なため息つきながら俯いてたらね?」
「…ごめん…」
「なになに?恋のお悩み?」
「違うよ」
「マジかぁ…後輩が泣くな…才田に抱かれたい子が何人居ると思ってんだよ…」
「何も言ってないし…面白い冗談だねそれ」
「…本気だよ。お前さ〜…まぁいいや」
いつもよりハイテンションな田中がやって来たかと思うと何かを言いかけ出て行った。ため息が更に増える。
微かに開いたスライド式のドアの向こうから水しぶきの音が聞こえて誠は慌ててプールに戻った。
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