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第41話

「んーーー…何しよう…」 現在午前8時、篠宮が出て行ってから二日、いや三日だっだろうか。よく分からないがとりあえず誠は暇だった。正確には途方も無い量の課題があるので暇では無いのだがどうも一人だとやる気が出ない。 だがしかしやるしかない、と誠はしぶしぶ参考書を開いてペンを持つ。 その時、静かな部屋にインターホンが鳴り響いた。 (こんな早くに誰だろう…) 誠がクラスで話すのは田中か篠宮か櫟田だけだ。まず篠宮は実家に帰省中なので選択肢から外れる。次に櫟田。これも何となく違う。最後に田中。田中は来る前に絶対メッセージを入れてくるので違う。全く検討が付かず部活絡みかと思い返事をしながらドアを開ける。 「はーい…」 「あっ!おはようございます才田先輩!」 そこに立っていたのは朝から愛嬌のある笑顔を浮かべた旭謙太だった。なんでこんな時間に。無意識に自分の表情筋が強ばるのに気が付いて無理やり笑顔をつくる。きっと篠宮に用があって来たのだろう。 「おはよう。しょ、篠宮、なら」 「違います!用があるのは才田先輩にです!!」 鼻息荒くフンフンと詰め寄ってくる旭にたじろぐ誠。マネージャーは同学年の選手のタイムしか取らないし旭とは全く関わりがなかったのでイマイチ テンションが掴めない。 「突然なんですが今日って暇ですか?」 「うん」 「あのっ!ぼ、僕と出掛けませんか!!!」 「え…あ、うん。何時にどこ行く予定?」 「えっと、1時間後に門で良いですか?隣町のショッピングモールで映画見たり買い物したいんです!!」 「うん。わかった。じゃ1時間後に」 そう言うとパァっと嬉しそうな顔で『ありがとうございます!』と言い礼をした旭。思わず頭を撫でたくなるような可愛さがある。旭はくるっと踵を返して廊下を駆けていく。本当に何を考えているか分からない。篠宮との一件で旭には若干の苦手感情がある。だけどやっぱり後輩だし縦の繋がりも大事だと自分に言い聞かせて準備を始めた。 「…何しよう」 準備と言っても着替えしかする事がなく、準備はすぐ終わる。今まで友達と遊んだ事はあっても後輩と出掛ける事はなかったので緊張して落ち着かない。手持ち無沙汰に弄っていたスマホ。不意にここ数日、篠宮の声を聞いていないのを急に思い出して電話帳を開く。今篠宮が電話に出られるか、とか気にしている余裕はなかった。声が聞きたい、その一心で篠宮の番号をタップする。 プルルル、プルルル、と鳴って数コール後、数日ぶり篠宮の声が聴こえる。 『もしもし誠?』 篠宮だ!と誠は思わず息を止めて篠宮の声を少しでも拾おうとしてしまう。 『…ん?誠?息してる?』 「…は、あっ、翔くん、おはよう」 怪訝な声でハッと我に返り慌てて返事をすると電話越しにフフっと笑われ顔が熱くなる。見られてるはずは無いのだが手のひらでパタパタと顔を扇ぐ。 『おはよ。どうした?』 「や、何も無いんだけど、元気かなって」 『ははっ、元気だよ。誠はどう?』 「元気!あ、さっき旭くんが来て一緒に出掛けよって誘われて、」 『はぁ?!謙太?!もしかして行くって言った?』 突然大音量で驚かれて誠もそれに驚く。 思わず少しスマホを耳から離した。 「おぉ…えっ、うん…駄目だったかな」 『いやいや全然いいんだけど…俺と出掛ける前に謙太とデート?』 「…あっ!…そんなつもりじゃ」 『なんてな〜冗談冗談。ま〜ちょっと妬くけど楽しんで。じゃあな』 「…うん。ばいばい」 篠宮が切ってから誠も通話を切る。数分の短い通話だった。いつも爽やかで皆に好かれている篠宮が…まさか妬くとは思っていなかった。驚きと嬉しさがひしめき合って変な気持ちだ。篠宮には悪いが誠の中では結局嬉しさが勝ってそのまま暫く余韻に浸る。そうこうしているといつの間にか約束の時間が近付いていて慌てて寮を出た。

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