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文化祭

色々あった夏休みが終わり、だんだん涼しくなってきた頃。LHRの話題は今月末に迫った文化祭のクラス別店舗についてだった。 「大体このあたりでいいー?」 クラス委員が黒板に書いていくのは『お化け屋敷』『喫茶店』『教室を迷路にする』『演劇』と、どれもド定番なものばかり。 クラスの大半は『定番で面白味がない』と思っているのは雰囲気からして確かだった。 そんな中、声を上げたモブ生徒が一人。 「メイドと執事に分けるのとかは?綺麗なやつ何人かいるし…」 挙手しながらそう言うモブ生徒はおもむろに視線を誠に送る。何人かいるし、と言いながら視線は誠にしか送られていない。それに気付いた篠宮含めるクラスメイトは一斉に誠を見た。 細く柔らかそうな黒い髪、元水泳部にしては白い肌、パーツの整った小さい顔。特に印象的なのが真っ赤…まではいかないが淡く色付いた唇。その綺麗な顔とはミスマッチな男らしい体躯に魅力を感じている生徒は少なくなかった。 「…?」 身体中、特に顔に集中してチクチク刺さる視線を感じ取った誠。うとうとしていた意識が一気に覚醒して慌てて背筋を伸ばす。モブ生徒は立ち上がり誠に提案した。 「さ、才田、メイドやらねえ?」 「?」 メイド?なんの事だ、と話を聞いていなかったので混乱する誠を他所に盛り上がるクラスメイト。 「あー、いや…俺は…うーん…」 「いーじゃん!ぜってー似合うって!!」 篠宮は密かに焦っていた。まずい、誠がメイドなんかしたら野蛮な奴にお持ち帰りされてしまう。そう思いながらも何と言えばいいのか分からない。 「はーい!俺!田中 大哉メイドやりまーす!!」 クラス委員が黒板に誠の名前を書こうとしたその時、田中が誰よりも大きな声で言った。チラリと目配せしたのは篠宮。ハっとした篠宮も挙手する。 「あ!じゃ、俺も!」 田中はやりそうだけど篠宮も?!と湧き上がるクラス。ワイワイガヤガヤ進行しながら、最後にやはり誠の苗字が書かれた。そこへまたしても別の男子が手を挙げた。 「おいおい才田はクールだから執事だろ!櫟田俊、メイドで〜」 誠をメイドコスから直接救ったのは、篠宮ではなく櫟田だった。 「えー、才田執事なん」 「…あ、うん」 クラスメイトの残念そうな声に誠は申し訳なさそうに頷いた。 なんで櫟田が…と誠がそちらを向くと二人の視線が交わる。一応救ってくれたし、そう思い誠は軽く頭を下げた。櫟田はそれを見てニコっと笑う。 盛り上がるクラスメイトに一連の流れを見てイライラする篠宮、また誠と距離を詰めようとしている櫟田と何だか気疲れしていそうな誠。 そんなカオスな状況の中、(やっぱ面白いアイツら、文化祭絶対何か起きるよな…)と内心ワクワクが止まらない田中だった。

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